打たれ弱い子どもの心のメカニズム…「感情不全」に陥っている【「不登校」「ひきこもり」を考える】
日刊ゲンダイ ヘルスケア / 2024年5月1日 9時26分
【「不登校」「ひきこもり」を考える】#2
もし、凄惨で陰湿ないじめやブラックな職場での辛辣な経験に一時的に苦しんだとしても、その後、多くの人の協力を得てその苦難を乗り越え、新たな場所で自分らしい充実した毎日を送られている方もおられます。同じ出来事や環境であっても、なぜ一部のお子さんにはその影響が重くのしかかり、乗り越えられないといった事象が起きるのでしょうか。
20年前は不登校やひきこもりは、ぜいたく病や甘え、怠けという意見もよく聞かれていましたが、私自身はこうした問題の背景には、お子さんが健全な心の使い方をできない「感情不全」の状態に陥っていることが本質だと確信しています。
■「感情不全」が不安、恐怖、屈辱感を膨れ上がらせる
誰もが“当たり前”だと思うような普通の感情処理ができない感情不全では、後述のように自己嫌悪や絶望感、不安や恐怖、屈辱感や虚無感といったネガティブな感情が膨れ上がり、またいつまでも消えません。その苦しさや想像を絶するつらさのため、非常にしんどい逆境体験はおろか、日常の小さな失敗やささいな中傷、そこまで思い悩むことではないようなわずかな挫折にも打たれ弱くなり、「とにかくこれ以上傷つかないように」とリスク回避ばかりを追い求めた結果、行き場を失い、生き方そのものまで身動きが取れなくなってしまうのです。そして不登校やひきこもりは、その一環で起きている行動面における一事象と言えるのです。
逆に私自身は、どうしても価値を見出せないから学校には行かないという選択をすることや、人生の一時期に充電期間としてあえてひきこもりの時期があったとしても、そこにお子さんが意味と価値を本気で見出し将来の飛躍を目指すというのであれば、親御さんとしては心配にはなるでしょうが、お子さんが自ら選んだ生き方なのであれば、不登校やひきこもりという事象だけを捉えて十把一絡げで「すべてが悪」と否定されるものではない、とさえ思っています。
問題は、それが熟慮の上での自らの前向きな決断に基づくものではなく、本人もそうした状況に決して満足しているわけではなく、そんな葛藤すら麻痺してすべてを先送りにして過ごし、無為な時間ばかりが流れ、年ばかりとっていき、貴重な人生における機会損失が重なり続けてしまっている……そんな不健康な心のありようにこそあるのではないでしょうか?(つづく)
▽最上悠(もがみ・ゆう)精神科医、医学博士。うつ、不安、依存症などに多くの臨床経験を持つ。英国NHS家族療法の日本初の公認指導者資格取得者で、PTSDから高血圧にまで実証される「感情日記」提唱者として知られる。著書に「8050親の『傾聴』が子供を救う」(マキノ出版)「日記を書くと血圧が下がる 体と心が健康になる『感情日記』のつけ方」(CCCメディアハウス)などがある。
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