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世界で旋風「厚底シューズ」のメリットや弊害、疑問…スポーツバイオメカニクスの専門家に聞いた

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年4月8日 9時26分

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順天堂大スポーツ健康科学研究科教授の柳谷登志雄氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

 柳谷登志雄
 (順天堂大スポーツ健康科学研究科教授)

 国内の陸上競技は2023年度のロードシーズンが3月で終了した。マラソンや箱根大学駅伝などに出場した多くの選手が「厚底シューズ」(厚底)で自己記録を伸ばし、女子マラソンでは前田穂南(天満屋)が大阪国際で2時間18分59秒をマーク。19年ぶりに野口みずきの日本記録(2時間19分12秒)を更新した。17年にナイキの初代厚底が登場。その後、ライバルメーカーも次々に厚底を発売し、今も世界で「旋風」が吹き荒れている。スポーツバイオメカニクスが専門でシューズの機能に詳しいこの人に厚底のメリットや弊害、疑問などについて聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ──柳谷先生は箱根駅伝に出場した順大陸上部員の協力のもと、ナイキのヴェイパーフライ(VF)4%の次のモデル「VFネクスト%」である実験をしたそうですね。

 約10人が大学のトラックで5000メートルのタイムトライアルを午前と午後に1本ずつ行い、私たちが数カ所でビデオを撮って、動作解析もしました。研究論文を投稿中のため詳しくお話しすることはできませんが、ほぼ全員が従来のシューズ(薄底)よりタイムがよくなり、歩幅も伸びた。これは効果があると思いましたね。また、従来の薄底より、筋肉の働きが5%ほど抑えられていた。5000メートル走なら15~30秒もタイムが伸びるという見方もありますし、実際にそれに相当するタイムが伸びてました。

 ──5000メートルで30秒ですか? マラソン(約42キロ)なら4分20秒以上。それが靴の中にあるカーボンプレート(CP)の力ですか。

 CP効果を勘違いしている人が多いようです。踏み込んでCPが折れ曲がり、戻るときに跳ねるといわれています。CPが戻る力はゼロではありませんが、VFはミッドソールが厚く、硬いので踏み込むとかかとがあがる、いわゆるシーソー効果が発生します。これによりストライドが伸びる。エビデンスは得られていませんが、CPの最大のメリットは、靴の形と前傾姿勢をキープすることによるシーソー効果ではないかといわれています。

 ──厚底に向くのはつま先から着地するフォアフット走法といわれ、市民ランナーはかかと寄りで着地するリアフット走法が多い。効果はありませんか。

 そんなことはないです。かかとが高いので衝撃を吸収してくれますし、かかとから地面についても前傾になりやすい構造になっています。もともと日本人に多いリアフットだと、かかとをついたときの衝撃が大きく毛細血管が破壊されて酸素供給が悪くなる。レース後半に酸素供給が低下してバテてしまう。マラソンはよく「魔の30キロ」とか「35キロからがきつい」と言われているのはこれで説明がつく。厚底だとかかとの衝撃を吸収するので毛細血管の破壊が抑えられ、レース後半でも疲労が軽減されます。時速14キロ、16キロ、18キロで走ったときの酸素摂取量を計測した海外論文があります。スピードを上げれば、当然酸素摂取量は増えます。VFを含む3種類の靴を比較すると、いずれもVFは他の靴よりも酸素摂取量が最も少ない。どれくらい少ないかといえば4%。ヴェイパーフライ4%の名称通りです。

疲労骨折の箇所が脛骨から大腿骨へ

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