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恐ろしい…年功序列制の企業では「45歳定年」が社員にとって最も損なワケ【同志社大学教授が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月13日 7時15分

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※画像はイメージです/PIXTA

時代にそぐわないともいわれる「年功序列制度」。廃止すべきか否か、度々議論を呼んでいます。本記事では、同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授の太田肇氏による著書『何もしないほうが得な日本 社会に広がる「消極的利己主義」の構造』(PHP研究所)から、日本の年功序列制度について解説します。

年功制のもとでは定年まで勤めると、貢献度と報酬の帳尻が合う

損得勘定には、個人の属性に関係してくる。その一つが年齢である。

特定の時点における社員の会社に対する貢献度と、会社から受け取る報酬とは必ずしも一致しない。後述するように、企業側が意図的に一致させないようにしているとも考えられる。

単純化していえば、年功制のもとでは若いときは貢献度以下の報酬しか受け取らないかわりに、中高年になると貢献度以上の報酬を受け取る。定年まで勤めることによって、その帳尻が合う仕組みだ(図表1)。

職務給が中心の欧米企業と比べたときの大きな違いは、二つの線の開きが大きいことと、定年まで勤めてはじめて元が取れるところにある。

「一家の大黒柱」文化の中では、ライフステージに沿った給与形態が必要だった

このような報酬制度は戦後、大企業を中心に日本的雇用慣行の一環として形成され、定着していった。企業がこうした制度を採用した背景には、つぎのような事情があったといわれている。

まず、経済が拡大するなかでは若年労働力を大量に確保する必要があり、長く勤めるほど得な年功賃金制度は労働力を会社につなぎ止める効果があった。

また、当時は個人の経験や熟練に依存する仕事が多かったため、年齢・勤続年数とともに賃金が上がる賃金制度にはある程度の経済合理性があった。

そして当時の標準世帯では世帯主である夫(父親)が正社員として働き、専業主婦の妻や子の生活は夫(父親)の収入に依存していた。

一般に結婚、出産、子の成長というようにライフステージが進むにつれて家計支出は増大する。したがって一家の生活を保障するためには年齢に応じて賃金も上げなければならない。つまり、年功賃金は一種の社会政策的機能を肩代わりしていたわけである。

いうまでもなく当時といまとでは労働力需要、仕事の性質、家族の就労形態などが大きく異なる。それでも実態としては、大企業を中心に年功制の枠組みは残っている。それはやはり企業にとって社員の帰属意識を保ち、ドライな離職を防ぐメリットが捨てがたいからである。

「45歳定年」の恐怖

典型的な年功制の場合、貢献度と報酬の線が交差する点(図のX)はおおむね45歳くらいだといわれる。会社への貢献度の報酬に対する超過分を貯金にたとえるなら、貯金の額が最大になるのがこのあたりの年齢である。

そうだとしたら社員にとっては、45歳くらいで辞めるのがいちばん損なわけである。2021年に、ある大企業経営者の発言がきっかけで「45歳定年」が議論を呼んだ。

発言の趣旨はともかく、企業にとっていちばん得で、社員にとってはいちばん損な年齢で辞めさせるなんてもってのほかだ、という反発の声が上がるのは当然だろう。

年齢が上がるに連れて、「今の会社」を続けたくなる仕組み

このような理屈からすると、これから元を取ろうという45歳くらいが、最も勤続意向が強くなるはずだ。もちろん理由はほかにもある。恵まれた給与だけでなく、せっかく獲得した役職ポストや肩書きも失いたくないだろうし、年齢とともに転職して新しい環境に馴染むのも難しくなる。

いずれにしても年齢とともに転職が割に合わなくなり、仕事に対しても保守的になるのは自然である。リスクを冒してまで挑戦しようという意識が薄れてくるのだ。

それはキャリアに対する意識からも見て取れる。パーソル総合研究所が2021年3月に行った調査の結果を見ると、年齢とともに転職意向が低下していく傾向がはっきりと表れている(図表2)。

また「2022年ウェブ調査」の結果を見ると、「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか?」という質問に対し、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」と回答した人の割合は、40代から高くなる傾向がある(図表3)。

損得勘定から、現在の職場に留まろうとしている様子がうかがえる。

それだけではない。年功制そのものが崩壊すれば、長年会社に預けてきた「貯金」が引き出せなくなる。デフォルト(債務不履行)と同じだ。

だからこそミドル層は管理職の削減につながる組織のフラット化やスリム化にも、日本的雇用慣行の見直しそのものにも強く反対するのである。

さらに大きな問題は、彼らの多くが中間管理職として仕事や人事の権限を握っているところにある。部下の失敗は自分の責任であり、将来のキャリアにも影響する。

若手の新しい提案やチャレンジに対し、何かと理由をつけて拒否したり、「待った」をかけたりする管理職がしばしばやり玉にあげられるが、単に年を取れば保守的になるという理由だけでなく、背後には自分自身の損得勘定が働いている場合が少なくない。

「働かないオジサン」が生まれたのは、年功序列制度が原因

デジタル社会の到来により、経験や熟練の価値が相対的に低下したいま、年功制の合理的根拠は薄らいでいる。そのなかで中高年は給与や地位に見合った貢献をしていないのではないかという認識が広がっている。

そこへもってきて自分自身がリスクを恐れ、挑戦を避けるだけでなく、若手の頭を押さえるような行動をとると、彼らに対する風当たりはいっそう強くなる。

「働かないオジサン」問題が取りざたされるようになったのには、こうした時代背景があると考えられる。いずれにしても「働かないオジサン」問題は大部分が制度の産物だといえよう。

女性の活躍を阻む「二つの壁」

性別もまた、損得勘定に影響を与える要因である。

「2022年ウェブ調査」の「仕事で失敗のリスクを冒してまでチャレンジしないほうが得だと思いますか?」という質問に、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」と回答した人は男性の61.2%に比べ、女性は69.9%と高い。

また「自ら転職や独立をしないほうが得だと思いますか?」という質問にも、「そう思う」「どちらかといえば、そう思う」の合計が男性は43.0%だったのに対し、女性は49.4%と高くなっている。

女性のほうが男性に比べ、仕事上の挑戦や転職・独立をしないほうが得だと思っている理由として、つぎの二つが考えられる。

一つは、男性と女性の仕事内容に差があり、挑戦して獲得できるかもしれない利得が女性は男性より小さいこと。あるいは制度・慣行その他のハンディにより、挑戦して成功する確率が低いこと。

もう一つは、挑戦すること、あるいは挑戦して失敗したときの負の利得(損失)が男性より大きいことである。いずれも実際にそうかどうかは別にして、そう考えられているのだろう。

要するに挑戦しても割に合わないと思う傾向が、女性にいっそう顕著だといえる。

太田 肇

同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科

教授

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