旧帝大卒の48歳・独身男性、年金暮らしの80歳父から“月5万円の小遣い”もらい…日本が抱える〈8050問題〉の実態【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年2月14日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
内閣府が2023年3月に発表した「こども・若者の意識と生活に関する調査」によると、40歳~64歳でひきこもり状態にある人は全国に約146万人いると推計されています。2019年の調査では61万人でしたから、コロナの影響もあってか、著しい増加です。今回、48歳Aさんの事例をもとに、日本が抱える「8050問題」の深刻さと解決策をみていきましょう。石川亜希子AFPが解説します。
親の敷いたレールを走り順風満帆だったはずが…
現在48歳のAさんは、警察官の父と2歳年下の専業主婦の母のもとでなに不自由なく育ちました。両親は教育に厳しいところがあったものの、Aさんは幼いころから両親の教えをよく守り、真面目に勉強に取り組む成績優秀な少年でした。
そして、親からの「大学は国立へ」というプレッシャーのなか、旧帝大に見事合格。順風満帆な人生かに思えました。しかし……。
晴れて大学生となったものの、おとなしく人付き合いがあまり得意ではなかったAさん。入った学部は明るくて社交的な人が多く、またアルバイト先でも波長の合う仲間が見つからず、人間関係に苦労しました。
これといってやりたいことも見つからないまま、あっという間に就職活動の時期に。当時は就職氷河期時代で、なかなか内定までたどり着くことができませんでした。
就職してからも苦難は続きます。高学歴で優秀だったAさんは大手証券会社に就職が決まったものの、その会社は体育会系。地味で真面目なAさんはそのギャップをネタにされるなど社風についていけず、わずか1年で退職してしまいました。
“親の敷いたレール”しか知らなかったAさん
半ば逃げるようにして、やつれた姿で実家に戻ってきたAさんを、両親は優しく迎え入れてくれました。「ゆっくり休んで、元気になったらまた働けばいいよ」と。
Aさんももちろんそのつもりで、1年半ほどの無職期間を経て復職を決意。再就職しようと奮起しましたが、まだ就職氷河期が続いていたうえ、キャリアを築けないうちに退職し、ブランクがあるAさんを好待遇で迎えてくれる会社はありませんでした。
最終的に非正規として働きはじめたものの、そこでも人間関係につまずき、退職。その後も勤務先の業績悪化で解雇されてしまったりと、職を転々とすることに。
Aさんは気づけば48歳になっており、現在はときどき倉庫などで単発のアルバイトをするのみで、収入は月5万円前後。年金暮らしの父親(80歳)から月5万円のお小遣いをもらう日々が続いています。家ではオンラインゲームに熱中し、仲間と交流を楽しんでいますが、実際に会うことはなく、ほとんどひきこもりのような状況です。
Aさんの両親は、「よかれと思ってやっていたが、こうなってしまったのは学生時代に厳しく育てすぎた自分たちのせいかもしれない」と責任を感じていたことから、Aさんに強く言えなかったということでした。
「ただ、いまはもう自分たちがいつまで元気でいられるかわからないので……息子が1人になっても、なんとか困らないようにしたいんです。それだけを望んでいます」。FPである筆者は、Aさんの両親からこのような相談を受けました。
“最悪、生活保護でも受けます”…Aさんが見えていない「深刻な未来」
一方、Aさん自身は、この状況をどう思っているのでしょうか。
両親の隣に座っていたAさんは、あっけらかんと話します。
「まあ、贅沢はできませんが、別に車やブランド品が欲しいわけでもないし、いまのままでもとりあえず暮らしていけるので不満はありません。親に負担をかけているとは思いますが、いまさら正社員になれるとも思えませんし。将来のことはわかりませんが、親がいなくなったら最悪、生活保護でも受けようかと思っています」。
実際、そんな単純な話かというと、そうでもありません。
昨今、親が自立できない事情を抱える子どもの世話をし続け、親子ともに高齢化(親が80代、子どもが50代)した結果双方の生活が困窮し、社会から孤立してしまう「8050問題」が深刻な社会問題となっています。
しかもこれは個人だけの問題ではありません。1度レールから外れたら再び同じキャリアを築きにくい、皆と同じでなければいけないという同調圧力、問題が起こったら個人のせいになるという「自己責任」の考え方など、日本特有の“文化”に起因する面も少なくないのです。
また、引きこもりというと、昔は「若者の問題」だと捉えられていましたので、最近まで中年の引きこもり問題が世間から見落とされがちだったことも否めません。
A家も、現状は年金も貯蓄も十分にあり、“今日明日にも生活が困窮する”というわけではありません。これが問題を先送りさせてしまっているのかもしれませんが、筆者が試算すると、A家の深刻な未来が見えてきました。
このままでは10年で「家計破綻」に
Aさんの両親は、現在父が80歳、母が78歳と、もちろん年金生活です。夫婦で月23万円ほどの年金を受給していますが、長いあいだ大人3人分の生活費を負担しており、年間100万円ほど貯金を切り崩している状況です。
退職金も2,000万円ほどあったものの、現在は1,000万円程度に減っており、このままの生活を続ければあと10年で貯金が底をつきます。
また、両親のどちらかに万が一のことがあれば、受給する年金額は大幅に減ることになるのです。
生活保護は簡単に受けられるわけではない
また、Aさんが言っていた生活保護も、簡単に受けられるわけではありません。
「生活保護」は、生活保護法に基づき収入が国が定める保護基準(最低生活費)に満たない場合に受けられるものですが、保護が受けられるか否かは世帯収入だけで判断されるものではありません。「生活保護を受けなくても暮らせる」と判断されると、申請が通らなくなってしまいます。
Aさんの場合、住まいが持ち家であるほか、病気やけがもなく、アルバイトに行くことができ、趣味も楽しむことができています。生活保護を申請しても、「もっと働ける余裕がありますよね?」と認可されない可能性が高いでしょう。
筆者の話をひととおり聞いていたAさんは、FPに現実を突きつけられ「このままではいけない」と危機感を持ったようです。「あの……、僕はどうすればいいんでしょうか」。
「正社員」にこだわる必要はない…徐々に収入を上げて“独り立ち”へ
Aさんがまずすべきことは、「親の力をなるべく借りず、自分の力で生きていく」という意識改革です。そして、収入を着実に増やし、自立していくことが求められます。
はじめから急いで収入を上げる必要も、“絶対に正社員”などと雇用形態にこだわる必要もありません。
単発のバイトをシフト制の長期アルバイトに変え、まずは親からのお小遣いをもらわずに生活することを目標にするといいでしょう。また、現在はクラウドソーシングなど、自宅にいながらオンラインで仕事を受注できるものもあります。
そうして収入を徐々に増やしていけば、貯金をしたり、家にもいくらかお金を入れたりすることができるようになるはずです。もともと優秀なAさんですから、厚生年金への加入や社員への登用など、きっとその先の明るい未来も見えてくるでしょう。
他方、両親は、不安や悩みを自分たちだけで抱え込まず、「ひきこもり地域支援センター」などといった自治体の窓口に相談するといいでしょう。
また、相続が発生した際にAさんが困らないよう資産の棚卸しを行ったり、ライフプランを家族で共有したり、Aさんが1人でも生活していけるように家事を分担させることなどもおすすめです。
さらに、将来Aさんが1人暮らしになった場合は、実家を売却して単身用のマンションを購入するというプランも考えられます。
簡単ではないかもしれないが…「8050問題」は“第三者への相談”が有効
「8050問題」は、子どもの引きこもりが長期化してしまうことで親がご自身を責めてしまいがちですが、自分たちだけで抱え込んでしまうと、どうしても視野が狭くなります。
先述した自治体の相談窓口や親・ご友人など信頼できるところに相談し、過去を責め過ぎず「いま、ここからできることはなんだろう?」と前向きに考えることから始めましょう。親ももっと自分の人生を生きていいのです。
いつからでも子が自立してリスタートが切れるように、地域も含めて見守っていく社会が望まれます。
石川 亜希子 AFP
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