経済的に安定している〈定年後〉の高齢者が働くのはなぜ?「社会貢献」と「健康寿命」の意外な関係性【心理学博士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月30日 10時30分
(※写真はイメージです/PIXTA)
近年は定年後も働く人が増えていますが、「働く理由」は現役時代とは違ったものに変化しているようです。どのような変化が起きているのでしょうか。そこで本稿では、MP人間科学研究所で代表を務める心理学博士の榎本博明氏による著書『60歳からめきめき元気になる人「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新聞出版)から一部抜粋して、老後も働くことと「健康寿命」の意外な関係性について解説します。
だれかの役に立つことが救いになる
定年退職により仕事や職場を失う喪失の時期は、逆に言えば解放の時期でもある。稼ぎのために仕事のきつさも我慢しなければならない生活を脱することができ、自分の思うような生活ができるようになるのである。
定年後に働く人も多くなっているが、その場合も働く理由や働き方の基準が定年前とは違っていることが多い。「人口高齢化を乗り越える社会モデルを考える」をテーマとする平成28年(2016年)版厚生労働白書では、同省が実施した「高齢社会に関する意識調査」から「働く理由」についてのデータを紹介している。
それによれば、40代から70代まで、「経済上の理由」をあげる人の割合がほぼ一貫して低下し、「生きがい、社会参加のため」をあげる人の割合がほぼ一貫して上昇している。
朝日新聞が2022年に実施した意識調査でも、第2の人生における働き方の基準としては、「達成感が得られること」(45%)および「世の中に貢献できること」(43%)を選ぶ人が多く、4割以上の人が達成感や世の中への貢献をあげている。「自分が成長できること」をあげた人も3割となっている(朝日新聞 2022年11月6日朝刊)。
このようなデータをみても、稼ぐ目的で働いてきた定年前と違って、定年後には「生きがい」とか「貢献」を意識した働き方へのシフトが起こっていることがわかる。
この「生きがい」と「貢献」は密接に関係している。私たちは、自分がだれかの役に立っていると感じるとき、していることにやりがいを感じる。つまり生きがいを感じる。反対に、自分がだれの役にも立っていない、だれからも必要とされていないと感じるときほど辛いことはない。当然、やりがいも生きがいも感じることはできない。
ここから言えるのは、私たちにとってだれかの役に立つこと、人から必要とされることが非常に大きな意味をもつということである。
「だれかの役に立っている」「必要とされている」と感じることができれば、たとえ報酬が現役時代と比べてかなり少なくても、場合によってはただ働きのボランティアであっても、現役時代以上にやりがいを感じ、張りのある日々を過ごすことができる。
役割をもち、張りのある生活は、健康寿命の延伸に効果があると考えられるが、そのことは調査データによっても示されている。
人間はどんなときに「自分が必要とされている」と実感するのか
では、どのようなときに「自分は役に立っている」「自分は必要とされている」と感じることができるのだろうか。
心理学では、それは「自己有用感」(自分も人の役に立つことができるという感覚)ということで研究されているが、心理学者の伊藤裕子たちにより、60~70代の人たち向けの自己有用感を測定する心理尺度が作成されている(伊藤裕子・山崎幸子・相良順子「自己有用感尺度の作成と信頼性・妥当性の検討」文京学院大学人間学部研究紀要Vol.22)。それには、つぎのような項目が含まれている。
「私は周囲から感謝されていると思う」
「自分の存在が周囲から認められていると感じる」
「自分が必要とされていると感じる」
「私は周囲から関心をもたれている」
「私がいることで周囲の人々の心の支えになっている」
「私は社会に役立つ人間だと思う」
「自分には役割がある」
このような自己有用感は、人間ではなくペットでも充足されるようであり、以下のような項目も含まれている。
「自分がいないと周囲の人(ペット)は困ると思う」
「私がいないと周囲の人(ペット)は淋しがると思う」
犬の散歩を習慣としている高齢者をよく見かけると思うが、ペットのためを思って取る行動も、自己有用感を満たすために大切な要素となっているのである。
榎本 博明
MP人間科学研究所
代表/心理学博士
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