「出ていってほしい」契約したばかりなのに…大家から立ち退き要求、衝撃の事実も発覚。せめて〈立退料〉は請求できないのか?【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月22日 12時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
お店を開くためには、長時間にわたり土地柄や集客のしやすさなどを検証し、物件を借りることになります。ようやく物件を借りることができたのも束の間、いきなり大家から出ていってほしいと言われたら、困惑しますよね。新たに物件は見つかるのか、休業すると従業員の給料が支払えないかもしれない......。そこで、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、事業用不動産の立ち退きについて、小林嵩弁護士に解説していただきました。
契約して間もなく、大家から「出ていってほしい」と言われ…
相談者は接骨院開業のため、賃貸借契約を結ぶことに。晴れて念願の接骨院をオープンすることができ、一安心していました。
ところが契約して3ヵ月も経たずして、突然大家から4ヵ月後までに出ていってほしいと言われたのです。また、大家が賃貸契約中に他の不動産業者に物件を売りに出しているという衝撃の事実も発覚。
できればこのままお店を続けたいけれど、どう対処すればいいのだろう……。
そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。
(1)大家からの立ち退きを拒否することはできるのでしょうか。
(2)立ち退く場合、初期投資の費用や引っ越し費用などは請求できるのでしょうか。
立ち退き要求は拒否できる場合が多い
本件での立ち退き要求は、法律上は賃貸借契約の解約申し入れをしているということになります。
契約で定められていれば、契約期間内であっても解約申し入れができるので、大家としては解約申し入れによって賃貸借契約を終了させて、建物を退去してもらいたいということになります。
もっとも賃貸借契約を締結している以上、借主は建物を使用収益できるので、直ちに立ち退き要求に応じる必要はありません。立ち退くか否かは交渉次第であり、大家は裁判なしに退去を強制することはできません。
このような立ち退き要求が簡単に認められてしまうと、借主の生活やお店の営業に大きな影響を与えてしまうため、借地借家法で借主の保護が図られており、解約申し入れが認められるには「正当事由」が必要とされています。
どのような場合に正当事由が認められるかは、借主の事情、大家の事情、立退料の金額等を考慮して決めることになりますが、判例上、立退料なしで正当事由が認められることは少ないです。
店舗の立退料としては、店舗の移転費用、新店舗の費用、移転期間中の営業補填等が一般的で、店舗の種類や規模などによって金額はケースバイケースです。
そのため、双方の具体的な事情にもよりますが、本件の場合では移転費用、新店舗の初期費用、改装費、移転期間中の営業補償などを請求できます。
立退料の提案がされないことはよくある
立ち退きの問題では、立退料が高額になることも多く、大家としてもなるべく費用は抑えたいと考えています。そのため、立退料の提示がないままに立ち退き要求されるケースがよくあります。
先ほど立退料なしで正当事由が認められることは少ないと説明しました。もう少し具体的に説明すると、正当事由の判断では、借主が建物を必要とする事情と、大家が建物を必要とする事情を考慮し、正当事由として認めるには事情が足りない場合に補完的な要素として立退料が支払われます。
そのため、借主にとって建物利用の必要性が低く、他方で大家にとって建物の必要性が極めて高い場合には、立退料なしで正当事由が認められることがあります。
本件のケースでは具体的な立ち退き理由は分かりませんが、大家が単に自分で建物を店舗として利用したいといった事情の場合には、正当事由はなかなか認められないでしょう。正当事由として足りない部分を立退料で補完することになります。
よくある立ち退き理由として、建物の老朽化があります。「建物老朽化に伴い立て直したいので退去して欲しい」といった具合です。
一見、正当事由がありそうに思えますが、判例上、老朽化のみで正当事由が認められるケースは少なく、相当に古い建物であっても立退料が必要となります。
このように、立退料なくして正当事由が認められるケースは少ないので、大家から立ち退き要求をされた際には、立退料についてよく協議することが大切です。
また契約書に「立退料を請求できない」と書いてあることがありますが、借地借家法第30条により無効となる可能性があります。
これらを知らずに立ち退きに合意してしまうと、引っ越し費用等は自己負担となってしまう可能性があるので注意が必要です。
小林 嵩
弁護士
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