中高年世代が抱える「骨量の低下」という大問題だが…「骨密度が高い」のに簡単に骨折してしまうケースとは?【医師が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月21日 12時0分
(画像はイメージです/PIXTA)
高齢になるとだれしも骨折のリスクが上昇します。万一骨折すると、それが原因で寝たきりになってしまうかも…。骨を強く保つには、どんな注意点があるのでしょうか。※本連載は、医師・常喜眞理氏の著書『オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎)より一部を抜粋・再編集したものです。
60歳からは5年に一度、骨量測定をお忘れなく
加齢により骨は徐々に弱くなり、骨折しやすくなります。高齢からの大腿骨(だいたいこつ)や背骨の骨折は、そのまま寝たきりへとなだれ込みかねないため、生活に大きくかかわるものです。骨の老化にはしっかり注意を払いましょう。
骨もまた、他の臓器のように新陳代謝(しんちんたいしゃ)を繰り返し、日々つくられることと壊されることが同時に行われています。しかし加齢により壊される割合が多くなり、骨量が低下。60代を超えたあたりから、骨が脆(もろ)くなってしまい、骨がスカスカになる「骨粗しょう症」と呼ばれる症状を抱える方が現れてきます。
女性では60歳以降で約25%、80歳以上では男女とも50%以上が骨粗しょう症になっています。
特に女性は、閉経期以降に女性ホルモンのエストロゲンが減少する影響で、男性よりも骨量の低下が早く始まります。
閉経の世界平均が50.5歳から51歳。閉経後もしばらくはエストロゲンが出続けるのですが、5~6年後からかなり減少していきます。そこから5年ほど経った60歳が、最初の骨量チェックの目安です。
20歳代の平均値の70%以下であれば、骨折予防のための医療機関での治療が必要です。
これ以上骨量が減らないように、カルシウムの吸収や骨の形成を助ける薬が処方されます。
骨量の測定法は、かかとや手から測定する簡便なものよりも、微量のX線を用いたデキサ法と呼ばれるタイプをおすすめします。大病院や大学病院に限られますが、大腿骨や腰椎(ようつい)の骨量を正確に計ることができます。
骨量は急激に変化するものではなく、また骨量の低下がわかったあとにも尿検査や血液検査で、その進行具合を読み取ることができます。5年に1度の測定で十分なので、多少手間はかかりますが、できるだけ正確を期してください。
なお骨の老化には、遺伝の影響が70%もあることがわかっており、両親のいずれかに大腿骨頸部(けいぶ)(太ももの骨と股関節の接合部)の骨折歴があると、骨粗しょう症リスクは約1.5倍となります。該当する方は、60歳になったら忘れずに骨量の測定を行ってください。
カルシウムの摂りすぎは逆効果
個々人の骨の強度は、思春期からの食習慣や運動などで決まるものですが、大人になってからの生活習慣によっても左右されます。いまからでも、「骨を守る生活習慣」を実践しましょう。
まずは低体重、肥満、そして喫煙、1日3合以上の飲酒は、いずれも大きな悪影響があるのですぐに改善しましょう。これらの要素は、他の多くの病気とも関連しています。
次に食生活ですが、骨といえばカルシウム。乳製品や魚介類、大豆製品、野菜・海藻類からバランスよく摂取することを心がけてください。
カルシウムの吸収率を高めるビタミンDも重要です。サバやイワシなどの青魚、シイタケなどに含まれています。
また、肌のためには紫外線対策は欠かせませんが、ビタミンDは日光に当たることでも活性化されますから、1日に15分程度は意識的に日光を浴びるようにしましょう。
そして摂取・吸収したカルシウムを骨に沈着させるには、ビタミンK2の働きも必要です。
こちらの成分は納豆、パセリ、しそなどに多く含まれます。
また、マグネシウムも骨には大切な成分。海藻やサプリでの摂取を心がけたいものです。
ちなみにカルシウム系のサプリメントをやたらと摂る方がいらっしゃいますが、カルシウムだけを過剰に摂取することは、かえって骨の破壊を進めます。くれぐれもほどほどに。そして、関連ビタミンの摂取もお忘れなく。
運動も大切です。
体を支えているのは骨だけではありません。骨と筋肉が一緒に機能しているわけですから、筋肉を維持することも、骨を守ることにつながります。
室内でできる簡単な運動で結構です。前述したスクワットに加えて、開眼片脚立ちなどを1日3分でもよいので続けましょう。
◆量だけでなく「骨質(こっしつ)」も大事なことがわかってきました
ここまで、主に骨密度=骨の量やカルシウムの重要性について述べてきましたが、実は最近では、骨の健康には量だけでなく骨の質、「骨質」も大事なことがわかってきました。この「骨質」を左右するのが、カルシウムとともに、骨のもうひとつの主成分であるコラーゲンです。
骨は重量のおよそ8割がカルシウムで、残りの2割がコラーゲンです。しかしその体積比は1対1。両者の役割と関係は、鉄筋コンクリート構造にたとえられます。
コラーゲンが鉄骨だとすると、カルシウムはコンクリートです。コンクリート部分が多少ボロボロになっても建物は大丈夫でしょう。しかし鉄骨部分が著しく劣化すると、コンクリートがたっぷり残っていても建物は倒壊します。
骨密度が高くても、つまり骨量が豊富にあっても、重量で2割にすぎないコラーゲン部分の劣化が、骨の強度を大きく左右するわけです。これが、重さでは測れない「骨質」です。
自分は骨密度が高いから大丈夫、と安心はできません。実際、骨密度が高いのに簡単に骨折してしまう例があります。
また、骨のコラーゲンの劣化=骨質の低下は単に加齢によるものではなく、内臓肥満や糖尿病など生活習慣病と関連していることもわかってきました。骨質は保険診療では測定できませんが、今後の研究の進展が注目されます。
さて、骨の老化は自覚症状もなく、静かに忍び寄るものです。外から見てもわかりません。
しかしそれを見過ごしていると、若い頃には考えられないような場面で骨折することが起こります。
私の知っている例では、ヨットに乗っていて、大きく揺れた衝撃で座ったまま腰椎を圧迫骨折した方がいらっしゃいました。ちょっとした尻もち、転倒でも同様です。
60歳からは、とにかく自分の骨量をきちんと把握することが大切。そして骨を守る生活習慣を心がけてください。
常喜 眞理 家庭医、医学博士
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