「京都大学」のキャンパスめぐり!建築家「大倉三郎」を感じるおさんぽルート【専門家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月27日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
京都大学は数多くの名建築を有しています。京都大学を中心に建築家の大倉三郎による建築物を見ていきましょう。おさんぽしながら見ることのできる名建築を、著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より、円満字洋介氏が解説します。
京都出身の建築家大倉三郎を京大で探す
大倉三郎を楽しむルートである。大倉は1900年京都市生まれで、1923年京大建築学科を第1期生として卒業した。武田五一の愛弟子のひとりである。卒後大阪の宗建築事務所に勤めるが、1928年に京大に呼び戻され京大営繕課の主力メンバーとして武田とともにキャンパス整備にあたった。京都工芸繊維大学学長、西日本工業大学学長を務め、1983年に逝去している。
瀟洒な白亜の建築
京阪出町柳駅から東へ、百万遍交差点を南の関西日仏学館は、瀟洒という言葉がぴったりの建物だ。列柱で立面を縦に分割してリズムを作りだし、庇や出窓を柔らかいカーブで処理して優しい印象に仕上げている。清楚な白をまとい、トップに控えめにアールデコ文字で館名を入れている。上品な大人のデザインといえよう。
思いをつなぐ連係プレー
東一条通りを東へ向かうと、大倉三郎ワールドのはじまりである。
ここ京都大学保健診療所は何度見てもおもしろい。先にあるものを尊重しながら継ぎ足していった楽しさにあふれる。最初に建ったのは正面の入り口アーチ部分で、これは武田と永瀬狂三が設計している。その後、今はカフェに使っている東側の車庫と外部階段のある西側を大倉と内藤資忠で増築した。そのとき外装をスクラッチタイルに統一して、アーチあり、階段ありの、さながら中世都市の一角のような場所ができあがった。
京大最初期のレンガ造
保健診療所のとなりの国際交流セミナーハウスは、よく見ると1階と2階でレンガの色が違う。後で2階を継ぎ足しているからだ。レンガ造は増改築が簡単であることが特徴である。この美しい壁面でおもしろいのは1階の窓の上にアーチが埋め込まれていることだ。窓上は石で補強されているが、さらにその上をアーチで補強している。それは補強であると同時に装飾でもある。最初から2階の増築を見込んだ上での補強だったのかも知れない。
これが武田の黄金比
正門正面の百周年時計台記念館は、免震化されたことでも有名だ。武田の代表作だが、弟子たちが総出で手伝ったので、どこが武田なのかよくわからなくなっている。それでもこれだという部分はもちろんある。
まず平面的には、規則正しい黄金比で構成されていて、その比率は建物前の広場にまで及んでいる。次に塔が控えめであること。
あとひとつは鯉のぼりの棹に見える左右の壁面の風車模様だ。鯉は滝を登って龍になるという。ここが学生のための登竜門だという洒落なのかも知れない。
スパニッシュスタイルの名建築
大倉ワールドの真骨頂
保健診療所から北を振り返ると法経済学部本館が見えるが、おもしろいのは正面玄関が見当たらないことだ。正面に見える塔のようなところは実は階段室で、出入り口はあるが玄関というわけではない。中庭に面した回廊が玄関にあたるのかも知れない。大倉は同志社でも回廊を作っているから、こういう空間が好きだったのだろう。大きな建物を作っても大仰な玄関を作らないのは武田グループの特徴ともいえる。
建物そのものが建築学教材
建築学教室本館、これも武田の代表作だ。武田はチョコレート色のタイルを好んで使うが、ここではタイルの模様貼りも見せてくれる。さて、玄関まわりの装飾のくどさとバルコニー手すりのあっさり感とのコントラストだが、わたしには片岡安のような装飾要素のばらまきをやっているように見える。不思議な柱頭も、入り口のラーメン模様も教材展示のごとく、くっつけて楽しんでいるのだ。
手入れの行き届いたスパニッシュ住宅
京大キャンパスを出て、吉田山の北裾を東へ向かうと、上西家住宅がある。ご覧のとおりのスパニッシュスタイルで、手入れも行き届いていて見ていて気持ちが良い。もともとスパニッシュは庇を大きく出さないから、庇の出が大きいのは日本の風土に合わせて変化した結果だ。通りに向けた破風板を母屋がつかんでいるところなど他所では見ないデザイン処理である。破風先端の切り込み模様も美しい。玄関上の十字と菱形の飾り窓はこの後で見る人文研にもあるので覚えておこう。
華麗な立面と巧みな平面が秀逸
今出川通りを渡った住宅街にある京都大学人文科学研究所は、スパニッシュスタイルの本格派で、この華麗な立面構成は東畑謙三のものと考えて差し支えない。
外からではわからないが、この建物には回廊で囲まれた中庭がある。修道院の形式を模しているわけだ。回廊まわりの僧坊に当たる部分を研究室に、会堂部分を図書館に、中央の塔は鐘楼というわけだ。この巧みな平面処理は武田のものだろう。シンメトリーを避け権威的な姿を避けている点も武田らしい。
涼しげで伸びやかなスパニッシュ
白川疏水沿いに歩き、京都大学農学部方面に抜けると、大倉三郎と関原猛夫の設計とある旧演習林事務所がある。デザインについては大倉の手によるものと考えてよいだろう。スパニッシュ風の建築だが、屋根瓦が黄色いので沖縄民家風にも見えるのがおもしろい。タイル貼りの回廊と大きく張り出した軒が涼しげだ。正面両側に立つ柱は、何本かの柱を抱き合わせたものを金輪で留めている。これは東大寺と同じ工法で、当時武田が東大寺修理に関わっていたことと関係があるだろう。
必見のトラバーチンタイル
当ルート最後は、今出川通り沿いの進々堂で、店主続木斉がデザインしたものを熊倉工務店が建築したという。喫茶室の家具が民芸作家黒田辰秋のデザインで、どっしりと落ち着いた雰囲気を楽しめる。内外ともタイルが見どころのひとつで、外装に使っているトラバーチン(虫食い大理石)風のタイルは他では見たことがない。粘土に木くずを混ぜて焼くとこのような形になる。穴の中だけ釉薬がかかっているが、それは灰釉かも知れない。
円満字 洋介
建築家
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