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「自信がないこと」には意外な利点が…不安になりやすい人ほど長生きするワケ【社会心理学者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月7日 11時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

自信が低い人についてまわる「不安」から逃れたいと思ったことはありませんか? しかし、『「自信」がないという価値』(河出書房新社)の著者であるトマス・チャモロ=プリミュージク氏は、「自信のなさは、将来の成功のために重要な役割を果たしてくれるだろう」と、言います。自信のない自分を認めそれをアドバンテージとできるようにするため、自信のなさのポジティブな面をみていきましょう。

不安傾向が強い人がもつ「意外な利点」

人間が「不安」の感情を抱くのは、生き残るために必要だからだ。不安を感じ、いわゆる「戦うか、それとも逃げるか」のメカニズムが発動することによって、身の安全のために注意したり、危険に対して準備したりできる。

つまり、不安とは、危険を察知したときの感情的な反応であり、不安のおかげで警戒や注意を高めることができる。

人類がまだ言葉を持たず、この感情にまだ名前が付いていなかった時代から、私たちは不安のおかげで逃げる準備や戦う準備をすることができていた。私たちの祖先にとって、身の危険が迫ったときに「逃げろ!」と教えてくれるのも、または「動くな! そこにいろ! やめろ!」と注意してくれるのも、この不安の感情だった。

自信が低い状態のときは、たいてい失敗を予測する。たとえば、大学入試や就職の面接、運転免許の試験、結婚式の乾杯のスピーチなどを控えているとき、自信がないと人は不安になる。そして不安のあまり、そのイベントから逃げ出したくなる。

人間の脳は、異臭、大きな音、変な味など、周囲に異変が起こると、本能的に反応するようにできていて、それが「不安の感情を抱く」という形になって表れる。

また、不安な気持ちから生まれる「内なる声」も、人間にとって大いに役に立つ。たとえばトラやサメとばったり出合ったとき、不安の声がなかったらいったいどうなるか想像してみよう。

当然ながら、心配性の人は、命に関わるような事故を起こす確率が低い。たとえば、イギリスで行われたこんな調査がある。

15歳の子供を1,000人以上集め、教師の証言や心理テストなどを使ってそれぞれの不安傾向を測定し、その人たちが10年後までに事故死したかどうか調べたのだ。その結果、15歳のときに不安傾向が強かった人ほど、25歳までに事故死する確率は低くなることがわかった。

また別の調査では、不安傾向の強い人ほど、HIV予防プログラムに積極的に参加するということがわかっている。不安傾向の強い人は、他にも伝染病の予防に敏感で、病気と思われるような症状が出たり、薬の副作用が出たりすると、すぐに医者に診てもらう。

また、不安傾向の強い人は、洪水の被害にあう確率も低い。自然災害に備えて普段から準備しているからだ。洪水が多い地域に住んでいる100人以上を対象に調査したところ、心配性の人だけが普段から洪水に備えているということがわかった。

女性のほうが男性より長生きなのも、この不安の持つ力で説明できる。女性は男性に比べて不安傾向が強いので、男性と同じだけ病気のリスクがあるにもかかわらず、世界のどの地域でも女性のほうが長生きだ。女性は、気になる症状があるとすぐに医者に診てもらい、過度な飲酒をせず、喫煙率が低く、違法ドラッグを摂取せず、体重の問題を抱える人も少ない。

キングス・カレッジ・ロンドン精神医学研究所のイサーク・マークスと、ミシガン大学医学部のランドルフ・ネッセによると、いわゆる「間違った警告」であっても、そのたびに反応するのはいいことだという。

なぜなら、間違った警告に反応するコストよりも、本物の危険を見逃してしまうコストのほうがはるかに大きいからだ。つまり、不安を感じるのは人間にとってよくあることであり、危険を避けるという意味で、思っている以上に役に立っているということだ。だからこそ、不安障害の症状を訴える人が、こんなにたくさんいるのだろう。

うつ病と不安障害は、どちらも自信が極端に低い人がかかりやすい病気であり、またどちらも特に珍しくない病気だ。たとえばアメリカでは、うつ病か不安障害の症状を訴えている人は、全体の約30%にもなる。しかも、これでもまだ控えめな数字かもしれない。

4万人以上のアメリカの学生を対象にした最近の調査によると、50%近くの学生が、病名がつくような何らかの精神的な症状を見せていたという。つまり、不安障害の患者の数は、実際に治療を受けている人の数よりもずっと多いかもしれないということだ。

不安障害とうつ病は重なる部分が多い。不安障害の症状がくり返し出た結果、もう心が対処しきれなくなり、不安と恐怖から逃れるために感情を殺してしまうのがうつ病だとも言えるだろう。

実際にうつ病と診断されるまでになると問題だが、ちょっとした気分の落ち込みや、悲観的な人生観には、実際に利点もある。

進化上の利点がある「うつ病」

心理療法士のエミー・ガットは、うつ病は身の回りにある本物の問題に対処する過程で生まれたという説を唱えている。注意力やエネルギーのすべてを目の前の問題に集中させるために、それ以外の感情をシャットアウトしているというのだ。

うつ病というと、不快な経験や感情などから逃避していると思われがちだが、実はその正反対だったのである。

イギリスの進化心理学者、ダニエル・ネトルによると、元々うつの傾向がある人は、自分に厳しく、その結果として競争力が高くなるという。「ネガティブな傾向が強い人は、理想の状態に到達するために努力し、悪い結果を避けるために努力する。その結果、進化のうえで生存に適した状態に近づけるのだろう」とネトルは言う。

うつ病には進化上の利点があるというネトル博士の主張は、他の数多くの研究でも裏付けられている。うつの傾向がある人は、たいてい自分を正確に評価できるー心理学の世界で「抑うつリアリズム」と呼ばれている現象だ。

この現象についての調査は以前から行われていて、たとえば抑うつ傾向のある人は、自分の評判、能力、社会的地位を、抑うつ傾向のない人よりも正確にとらえている。同じような調査は何度も行われているが、結果はいつも同じだ。特に、やや悲観主義の傾向がある人ほど、自己評価が正確になるという。

つまり、自信の低さとは、一種のリスクマネジメント戦略だということだ。過去、現在、未来における自分の能力を正確に把握し、リスクに備えているのだ。自信の低い人の自己評価は、周囲からの評価とだいたい一致しているが、完璧主義がすぎる場合には周囲の評価よりもかなり低くなる。

とはいえ、たとえ自己評価が低すぎるケースでも、自信の低さはアドバンテージになる。それは、損失を最小限に抑えられるからだ。

適度な悲観主義は、環境に適応して生き残るうえで大きな力になる。たとえば、精神科医のロバート・レイヒーは、悲観的な人と楽観的な人を対象に、カードを使った賭けという形の実験を行った。

どういう結果になったかは、だいたい想像できるだろう。悲観的な人は、自分が賭けに負けると予想し、そもそも賭けるのをやめる。一方で楽観的な人は、自分が勝つと予想する。その結果、悲観主義者は賭けで勝つことはないが、負けることもない。

そして楽観主義者は、すべてを運任せにするので、勝って大金を手に入れることもあれば、負けてすべてを失うこともあるーそして最終的には、たいていすべてを失うのだ。

とはいえレイヒーによると、「ずっと悲観的でいられる人はほとんどいない」という。「進化上の衝動なのか、ふと賭けてみることにしたところ勝ってしまい、それまでの悲観主義が崩れることもあるようだ」とレイヒーは言う。

カードゲームだけでなく、野生の王国でも結果は同じだ。先にも登場したマークスとネッセはこう言っている。

「食事をしていても、数秒ごとに顔を上げて肉食動物がいないかどうか確認しているシカは、食事をしたり、交尾したり、子供の世話をしたりする時間は減るかもしれない。そしてあまり頭を上げず、食べることに集中するシカは、食事の量は増えるかもしれないが、自分がエサになるリスクが大幅に高くなる」。

このように、不安傾向があること、自信がないことは、注意力を高めて損失を減らすという意味で、生き残るうえで利点になるのである。

つまり、自信の低さのもっとも大きな役割は、環境に適応して生き残る助けになることだ。自信の低さゆえに不安になり、それが自分の身を守ることにつながるー不安とは「自信がない理由を考えなさい」というメッセージであり、実力を高めて自信のなさを克服しようとするきっかけになるのだ。

とはいえ、生まれつき悲観的な性格で、いつも最悪の結果を予想するから自信が低いという可能性も考えられるだろう。それは「悲観バイアス」と呼ばれる状態だ。もちろん、何事においても自信がなく、悲観的で、ネガティブな人というのも存在する。そういった性格は、子供時代に感じた不安と、生まれつきの性格の組み合わせでできている。

いずれにせよ、自信のなさには環境適応のうえで利点があり、損失を最小限に抑えるという役割がある。ある特定の物事に対してだけ自信がない場合も、またはすべてにおいて悲観的な性格で、何事も悪いほうに考えてしまう場合も、自信のなさは、失敗を予防して自分を守ろうという脳の働きなのだ。

自信のなさはあなたを守る

自信がないとき、人は不安になる。そして不安になると、自分の身を守るために行動を抑制しようとする。それなのに、この自己愛過剰の社会は、自信のなさは悪だと執拗に言い張っている。

自信がないと感じる原因や、その効果については考えず、ただ自信がないときのイヤな感情ばかりに注目するー心配、緊張、不安、パニックなどだ。しかし、それらの感情にも、悪い結果を予防するという立派な役割があるのだ。

トマス・チャモロ=プリミュージク

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授

コロンビア大学教授

マンパワーグループのチーフ・イノベーション・オフィサー

社会心理学者/大学教授

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