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風呂に入らなくなった老親、認知症より先に疑うべき「ある病気」【医師が解説】<br />

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月2日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

老親がお風呂に入りたがらず、「うちの親、もしかして認知症かも…?」と悩む人は少なくありません。しかし、65歳以上で発症する老年性の認知症は、約10年ほどかけてゆっくり進行する場合がほとんど。つまり、疑うべきは別の病気なのです。本記事では和田秀樹氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、認知症疑惑のときに役立つ情報を解説します。

「風呂に入らない」は認知症のサイン?

80歳を過ぎた親が、「風呂に入りたがらない」というケースはよく聞きます。この時、「風呂に入りたくない理由が何か」は、しっかり考えてあげなくてはいけません。

半年ぶりに実家に帰ったとした時、前日に「明日帰るから」と電話をかけておいたのに親がそのことを忘れている。かつ、何日も風呂に入っていないようで、体が臭う。若い頃から割とおしゃれな人だったのに、寝巻きからの着替えもしていないようだ――。

もし、半年ぶりに会った親のそんな場面に出くわしたら、大概の人は「認知症になったのでは」と疑い、心配するでしょう。

しかし、65歳以上で発症する老年性の認知症は、多くの場合、発症後にゆっくりと進行する病気です。大抵は物忘れから始まって、だんだんとその他の生活機能が衰えてくる。

ということは、もし、風呂に入らなくなった親が認知症であれば、前回会った半年前にも物忘れの症状があったはずです。

さらに一般論から言えば、老年性の認知症の場合、物忘れが始まってから、着替えをしなくなったり、風呂に入ったりしなくなるまでに、3年から5年はかかるはずです。

認知症は個人差が大きい病気でもあるので、まれに進行が速い場合もありますが、平均では、発症から10年ほどの時間をかけて進行する病気です。

それにもかかわらず、半年の間に物忘れが始まり、着替えもしなくなり、風呂にも入らなくなるとしたら、まず考えるべきは認知症ではなく、老人性の「うつ病」です。

認知症以上に怖い「老人性うつ」

長年、高齢者を診てきた精神科医として、認知症以上に怖いと思うのが「老人性うつ」を患うことです。

「うつは心の風邪」という言葉があります。「風邪をひくくらい誰にも身近な病気」といった意味ですが、私はむしろ「うつは心のがん」と表現するほうが正しいと思います。

それは、うつが自殺という「死に至る病」であることが理由です。欧米では、自殺者の生前の調査(心理学的剖検)により、その50〜80%が「うつ病だった」と診断されているほどです。

厚生労働省「患者調査」ではうつ病の患者数は120万人ですが、国際的な有病率3〜5%を日本の人口に当てはめると400万〜600万人。うつ病とは言えないまでも、抑うつ気分の人を含めると、人口の10%近くに達するというのが私を含めた専門家の見解です。

「老人性うつ」の患者数がどれくらいかは正確なデータがありませんが、人口の3割が高齢者で、うつ病発症率は若い人より中高年のほうが高いことを考えると、うつ病の全患者数の3分の1以上が高齢者であるとみて間違いないでしょう。

わかりづらい「うつ」と「認知症」の違い

「うつ」と「認知症」はまったく違う病気ですが、症状には似通った点があります。実際、家族が認知症を疑って病院を受診したところ、結果はうつ病だったというケースはよくあります。

「なんとなく元気がない」「一日中ぼーっとしている」など、初期症状が似ていることから、医師でさえ診断を間違えることがあるほどですが、私が診察時に注意するのは、次のような点です。

「症状がいつごろ始まったか」と聞いて、本人や家族がはっきりと時期を言える場合は、うつ病の可能性が高いでしょう。先述したとおり、老人性の認知症は時間をかけて進行することが多いため、「いつ始まったか」がはっきりしないことが多いものです。

一方、うつ病はある時を境に急に症状が出るので、いつごろ始まったかがわかることが多い傾向があります。

さらに、「物忘れが増えて困っている」など本人に自覚症状がある時も、認知症よりうつ病が疑われます。

一般的に認知症の人は、物忘れが多いことに自分ではあまり気づいていません。病識が欠如していることが多く、記憶障害があっても不安を感じず、けろりとしています。

そのほか、食欲が急になくなったりするのと同時に、「夜中に目覚めてしまう」など不眠の症状を訴える場合も、うつの大きなシグナルといえます(認知症の人は食欲が増すケースが多く、長く寝すぎる傾向があります)。

さて、「風呂に入らなくなった」親御さんがうつ病だった場合、適切なカウンセリングや投薬治療により、症状を改善したり、やわらげることが可能です。

老人性うつは早期に発見し、治療を開始すれば、抗うつ薬が良く効き、80〜90%くらいの確率で治ります。うつ病の症状が良くなれば、自ら進んで風呂に入ったりもできるようになるでしょう。

なお、認知症を発症すると、初期の頃にうつを併発する傾向もあるので、注意が必要です。アルツハイマー型認知症の場合、初期のうちに20%の人がうつになるとの研究報告もあります。認知症を発症したことがわかり「人生終わった」などと必要以上に落ち込むと、余計にうつを併発しやすくなるのです。

認知症が原因で風呂に入らなくなったケースはどうでしょうか。

認知症が原因であれば、要介護度1か2と判定されるはずなので、公的介護保険でデイサービスを利用すれば、そこで入浴させてもらうことができます。

物忘れから認知症が始まり、数年かかって風呂に入らなくなる段階は、認知症としては中期を過ぎていると言えるので、介護認定を受ければ、十分サービスの対象にはなるでしょう。

清潔好きな日本人だからこそ、「お風呂に入らなくなった」と心配になる気持ちもわかりますが、代謝が落ちた高齢者の場合、毎日風呂に入らなかったとしても、直ちに不潔になるわけではないことも、付け加えておきます。

和田 秀樹

精神科医

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

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