オーナー社長、痛恨のミス…「長男と次男を入社させ、後継者としての適性を見てみよう」で起こる大問題
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月5日 13時0分
(画像はイメージです/PIXTA)
自分が築いた会社を、わが子に継いでほしい…。そのように考えるオーナー社長は少なくありません。しかし、子どもを次の社長にするためには、注意を払わなければならない、さまざまな問題があるのです。本連載は、事業承継士・中小企業診断士の中谷健太氏の著書『「子どもに会社をつがせたい」と思ったとき読む本』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
同じ会社に複数の子を入れてはいけない理由
事業承継の問題は先代が倒れたときに顕在化します。その典型的な問題がきょうだい間の確執です。
子が後継者候補としてベストといっても、同じ会社に複数の子を入れるべきではありません。それを何度も耳にし、わかっていながらもやはり親心から入社させるケースが少なくありません。
ありがちなシチュエーションは「とりあえず複数の子どもを入社させて様子を見たうえで後継者を決めよう」と考えているケースです。やがて子どもたちが経営するようになると、必ずといっていいほどお互いの経営方針や価値観などにズレが生じます。きょうだいという近しい間柄だからこそわがままが表面化することもあるでしょう。
事業が安定していれば次第に社内政治に意識が向きがちになり(トップでない弟が、妻から会社における立場などについて意見を言われ始めることも)、その結果、仲のよかったきょうだいが感情的に対立することもあります。
きょうだいは社員から見たら「2人とも社長」です。
指示系統が一本(トップが1人)だからこそ、社員も自分の従うべき指示がわかります。
にもかかわらず、トップでない他のきょうだいが社長に対して対等な立場で意見を言ってしまうと、社員から見れば実質的に指示系統が複数発生してしまうことになります。これでは社員は困惑します。
それだけでなく、トップではない他のきょうだいが一部の社員を取り込んで派閥を形成してしまうこともあります。こうなると社員が分裂して社内の風土が悪化し、最悪の場合、トップでない弟が社長のあらぬ噂を広めた挙句に、一部の社員を引き連れて独立してしまうというケースも見受けられます。
複数の子どもを同じ会社に入れるなら、社長である親の務めとして、後継者にならなかった者には、ナンバー2として生きることを覚悟させなければなりません。つまり、「社長の方針に合わないなら辞表を出すように」と厳命しておくのです。
冷酷な意見かもしれませんが、家族間で感情的な対立が発生したときは、法律では修復できません。いずれか一方が会社から離れることでしか、抜本的な解決にならないケースが多いのです。やはり、会社に入れるのは親族のうち1人がベストです。
きょうだい経営がうまくいくコツを強いて一つ挙げるとすれば「役割分担を明確にする」こと。事実、きょうだいで営業部門担当と製造部門担当など、役割分担を明確にして成功している企業もあります。「きょうだい経営はうまくいかない」のは圧倒的な事実ですが、きょうだいの結束がプラスに作用すると、これほど強いものもありません。
しかし、うまくいっていない会社がその何倍もあることを忘れてはいけません。きょうだい経営がプラスに作用する確率は非常に低いと感じています。
きょうだいの揉めごとを避けるために会社を分ける方法もあります。この場合、まったく違う事業でお互いが自立して経営できるならいいのですが、製造会社と販売会社といった機能別の分社では、やはり利害関係が発生し、わがままを言い合える関係であるためにうまくいきません。
「社長候補の子 vs. それ以外の子」…確執が生まれるケース
きょうだいの確執を生むのは、同じ会社に複数の子が入る場合にかぎりません。子どものうち1人が会社に入って継いだとしても、継いでいないほかの子どもたちとの間に確執を生むケースもまた多々あります。
会社を継がなかった子たちからすれば、会社は「金のなる木」です。サラリーマンでは稼げないような報酬、第二給与とも言える経費、クルマも社用として好きなものに乗れる、ゴルフや美食三昧……、社長というポジションはどうしても周囲からそう見えてしまいます。
兄と弟が会社に入っていて、兄を後継者として決めた場合、選ばれなかった弟は会社を去ることもあります。立ち去る側としては「身内に排除された」という感情から大きな確執に発展してしまうかもしれません。後継者は、会社を去る側への配慮を忘れてはいけません。せめて退職時には、立ち去る側の要求にできるだけ応じたほうがよいでしょう。立ち去る側が自社株を保有している場合にはこれもすべて買い取るべきです。
「社長は息子+金庫番は母親」の組み合わせで起こる問題
事業承継における親族間のトラブルは、きょうだい間だけで発生するものではありません。後継者と先代の妻、つまり母親とうまくいかないケースもあります。ただきょうだいと違って、経営権(社長の椅子)を狙って後継者と母親が対立するケースは多くはありません。むしろ後継者を支えて自社を守ろうとします。しかし、会社の守り方がときに後継者にとって疎ましくなるのです。
オーナー企業では、社長の妻が会社の経理を担当していることは珍しくありません。会社の「経営者の妻で経理担当」という立場は絶大な力をもちます。ときには社長に第三者的なアドバイスをしたり、母親的な存在として社員たちの面倒を見ていたり、厳しいお目付け役の経理担当者として「シビアにコストを管理する役割」を担う、なくてはならない存在であったりします。
不正の起きやすい経理という仕事を妻に任せる安心感は、他に代えがたいものでしょう。しかしながら弊害もあります。会社のカネを管理しすぎてしまうことです。
ある会社では、先代が亡くなり長男が社長になりました。先代の妻は役員として残り、会社の印鑑と通帳をすべて自分で保管し後継者に渡しませんでした。後継者が新しいことを始めようとしても、いつも母親の了承が必要です。ところが母親は、新しいことには極端に消極的でした。これではいったい誰が社長なのかわかりません。
社長は、カネとヒトを自分の判断で動かすことができるからこそ社長です。そのカネを自由に動かせないとなれば社長とは言えません。
長年にわたって、先代の妻(母親)など同じ人が経理を担当していると、いつのまにか「カネの管理がその人しかできない」という事態に陥ります。結果として会社のカネの動きを実質的に掌握することになります。
また先代の妻(母親)は、経営者同様に高齢化していきます。母親自身は「早く自分の業務を誰かに引き継ぎたい」と口ではこぼしつつも、実際にその仕事を他の誰かに任せることになれば、自分の仕事がなくなり、自分の存在価値を失いかねないという不安があります。そうしたことから、後継の経理担当者を育てようとしないケースも目立ちます。
代替わりこそ経理担当者変更のチャンスです。現社長が自分の妻を会社の経理担当者にしているなら、社長交代を契機に別の者に変更します。
ただ急に頭ごなしに変更を指示すると、妻としても自分を否定されたようで気分を害するでしょうから、「自分はそろそろ引退を考えている。これを機会に経理担当者も新しい人に任せよう」と話を広げていくのが穏当です。
社長交代のタイミングに合わせて、次の経理担当者の選定と教育を施していくことを考えましょう。
中谷 健太 株式会社新経営サービス 経営支援部マネージャー 事業承継士/中小企業診断士/経営革新等認定支援機関
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