私が太っているのは「お金がない」からなんです…年収340万円の54歳・非正規男性が〈絶望の老後〉を前に自虐全開→少しだけ前を向けたワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月11日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
1980年代のいわゆるバブル期に子ども時代を過ごし、バブル崩壊後、1993年から2005年の間に大学卒業を迎えた年代を就職氷河期世代と呼びます。そんな就職氷河期世代も50代となり、老後の生活について不安を抱える人も少なくありません。そこで今回、就職氷河期の煽りを受けて非正規雇用者となったAさんの事例をみていきましょう。石川亜希子氏FPが解説します。
贅沢なんてしていないのに…「非正規雇用者」のリアル
Aさんは1970年生まれ、今年54歳になります。実家のある地方でもそこそこ知名度のある東京の私大を卒業したものの、いわゆる就職氷河期世代にあたり、思い描いていたような就職が叶いませんでした。やむなく非正規雇用として職を転々とすることになったAさん、30代の頃には結婚を考えたこともありましたが、非正規雇用で不安定ということもあり踏み切れず、結局ずっと独身です。
現在は契約社員として働き、年収は340万円ほど。ボーナスはありませんが、月の手取りは約22万円で、今のところなんとかやっていけています。ただし、現在の仕事は60歳で契約が切れる予定で、退職金はなし。貯金も100万円ほどしかありません。
ある日、なんとなくつけていたテレビで老後破産の特集をみたAさんは、急に60歳以降の生活が不安になりました。
「これまで贅沢なんてしていないに、いまの契約が切れたらただ生きることすらも難しくなってしまう……生まれる時代が悪すぎた」
自身の老後のネガティブな想像に絶望したAさん。なにか変えなければと、会社の同僚がFPにライフプランについて相談してみたという話を聞き、自分も相談してみることにしました。
Aさんの収支を改善…まずは「固定費」を見直す
AさんがFPに相談したところ、まずは固定費について見直すことを提案されました。
Aさんの毎月の支出は以下のとおりです。
■家賃6万5,000円
■食費5万5,000円(外食を含む)
■光熱・水道費1万円
■通信費1万円
■保険料1万円
■日用品1万円
■医療費1万円
■趣味1万円
■その他4万円
まず、食費が5万5,000円もかかっていました。総務省の家計調査によれば、単身世帯の食費の平均値は3万8,000円ほどであり、Aさんは平均を大きく上回っています。
Aさんはふくよかな体格で、食にこだわりがあるからかと思いきや、「私が太っているのは『お金がない』からなんですよ、ジャンクフードばかり食べていますから」と自虐全開。自炊をせず、安価で満足感を得やすい外食に偏っていることが、高い食費と不健康な食生活という悪循環を生んでいたのです。
よくよく話を聞けば、Aさんの実家は農家で、Aさんの兄夫婦が両親を手伝っているそうです。実家からは、長い間顔を見せないAさんのことを心配して頻繁に野菜が送られてくるものの、自炊しないのでダメにしてしまっていることも多いということでした。
食費だけではない…節約可能な「その他」の正体
また、「その他」項目の4万円についても、毎週末のパチンコ通いであることが判明しました。しかし、ギャンブルにはまっているというより、同じ就職氷河期時代であっても立派なキャリアを築いている大学時代の同期も多く、現実逃避の側面もあったようです。
こうして、Aさんの固定費改善は、食費とギャンブル費を減らすことに絞られました。
これらの項目を減らすことは、健康的な生活にシフトすることにもつながり、長い目で見れば将来の医療費や健康寿命などにも影響をおよぼすでしょう。
日本に潜む「相対的貧困」とは
日本では、単身高齢者の増加やひとり親世帯の増加、雇用の非正規化などに伴って、「相対的貧困層」が増えているといわれています。
相対的貧困とは、その国の水準と比較して困窮な状態にあることで、具体的には、世帯の所得がその国の等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態のことを指します。単身世帯では、手取り年収127万円(2018年)がボーダーラインとなっています。
Aさんは現時点では相対的貧困にはまったく当てはまらないものの、60歳以降になると、途端に当てはまってしまうことになります。
また、厚生労働省から発表された2022年度の国民生活基礎調査では、日本の相対的貧困率は15.4%となっています。この数値は先進国のなかでも高く、Aさんのような単身高齢者の増加にともなって、これからも上昇していくことは十分に考えられるでしょう。
さらに問題なのが、貧困は「連鎖する」という点です。
教育や体験といった機会の喪失は、学力や学歴、就職にも影響し、次世代の教育や体験の機会の喪失につながります。また、適切な栄養を摂取できないと、健康面での問題も発生しやすくなるでしょう。
生活や教育、就職など、さまざまな分野で機会を喪失してしまうと、人との交流も失われていってしまいます。
FPから固定費等の削減について提案されたAさんは、当初「そんなことしたら私はなにを楽しみに生きていけばいいんですか」と、実践する気はなさそうでした。しかし、自身の現状について客観的にみることで危機感が生まれたそうで、早速自炊からはじめることを決意したそうです。
改善された家計…“思わぬ効果”も
食材をストックするような大きな冷蔵庫もないから、料理はしたことがないと言っていたAさんでしたが、このままの生活ではいけないと、少しずつ自炊に努めるようになりました。スーパーで野菜の値段の高さを知り、改めて実家から野菜を送ってもらえることのありがたさを実感するようになりました。
また、久しぶりに実家と連絡を取ってみたところ、一度顔を見せるように懇願され、GWに10年以上ぶりに帰省することにしたそうです。
食生活に気をつけるようになると、休みの日も健康的に過ごしたい気持ちが芽生え、パチンコにあてていた時間もウォーキングやジョギングをするようになりました。家に体重計がないため正確にはわかりませんでしたが、気がつけばズボンが緩くなり、会社でも、なんだか明るくなった、若返ったと言われるように。60歳以降の再雇用についても明るい兆しが見えてきました。
なにより、毎月の支出を抑えることで月に数万円を貯金できるようになり、毎月iDeCoの積み立ても始めました。50代から始めると運用益としてはそこまでメリットはないかもしれませんが、年間4万円ほどの節税効果が見込まれます。
こうして普段の生活が変わったAさんは、老後を少しだけ前向きに考えられるようになりました。
「相対的貧困」は他人事ではない
日本の相対的貧困の問題は、転職や離婚、病気、災害などで、誰にとっても起こりうるものです。そのような状態が続くと、正しい判断をすることも難しくなってしまいます。一方、相対的貧困は生命の危機に瀕するほどの経済状態ではないため、周囲からは貧困状態にあるようにみえず、問題が潜在化しやすいという特徴もあるのです。
Aさんのように、ひとりで抱え込まずに周囲に相談したり、家族や友人と交流を持ったりすることは、自分の状況を俯瞰して見ることができるようになり、食生活や経済状況の改善につなげられるため、非常に大切です。また、行政や自治体の情報も積極的にチェックしましょう。
石川 亜希子 AFP
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