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6桁ドルもの給料を稼いでいた元グーグルのエンジニア…「ゾンビのような」働き方をガラリと変えたワケ

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月26日 11時15分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

仕事とプライベートをどのように分けたいかは人それぞれである。仕事と私生活の境界が曖昧でも気にしない「インテグレーター」と、仕事と私生活を明確に分けたい「セグメンター」。そのどちらの生活スタイルも自らの価値観に基づき転換・実践してみせたのがGoogleで6年間働いていたソフトウェアエンジニアのブランドン氏だ。本稿では、有名デザインコンサル会社IDEOの元デザインリードであるシモーヌ・ストルゾフ氏による著書『静かな働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)の第7章「さらば、おいしい残業特典」より一部抜粋して、働き方と生き方について考えます。

グーグル社員、節約のためトラックに住み始める

ブランドン・スプレイグは、マサチューセッツ州東部の町でブルーカラーの両親の下に生まれた。母は眼科医のクリニックで働き、父は日除けをつくる仕事をしていた。

自分の生き方は両親を反面教師にしている部分が大きいと、ブランドンは話す。母は「物欲が強い」と言い、小型マッサージ器や食料品店のレジ近くに並ぶ小物などを衝動買いすることが多かった。父は「昔ながらの男」でバイクに乗り、1日の終わりには必ずバーに足を運んだ。

ブランドンはマサチューセッツ大学アマースト校に進学するために家を出るまで、5回引っ越しをしたという。だから、「自分にとって錨(いかり)となるような特別な場所を持ちたいとはあまり思わないんだ」と話す。

ブランドンは若々しい顔つきで目はキラキラしているが、落ち着きがあり、よく考えてから発言する。SNSによく投稿し(「意識がないものはすべてツールである」「ある程度お金ができると、それがすごく役に立つ機会は減る」など)、口にする言葉から購入する靴下まで、彼の行動の裏にはきちんと考えがあるのが窺えた。

ブランドンは学生時代、大学の学費を稼ぐために毎週30〜40時間、マサチューセッツ州の南西部の公共交通を監督するパイオニアバレー交通局で働いた。バスの運転手として働き始めたが、そこで4年働く間に、交通局の給与計算とルート管理のソフトウェアを書き直していた(ブランドンは13歳でプログラミングを独学で習得している)。

大学3年生になると、グーグルでインターンシップをする機会を得た。それまでブランドンはマサチューセッツ州の地元から出たことはほぼないし、パスポートも持っていなかった。とはいえ、21歳の夏、カリフォルニアでのインターンシップのために初めて国の反対側へと向かったのである。

昼寝スペースやバレーボールコート、キャンパス内のドライクリーニングサービスを備えたグーグル本社はパイオニアバレー交通局とは何もかもが違った。しかし、ブランドンにとって最も衝撃だったのはベイエリアの生活費の高さである。シリコンバレーで夏を過ごす間、3人のルームメイトと2ベッドルームの部屋を借りた。それぞれが家賃に月2000ドル(約29万円)以上を支払った。

ブランドンはそんな大金を払うことに不満を感じた。だから、翌年グーグルよりフルタイムの仕事のオファーを受けたときから、ブランドンは生活費を最小限に抑えながら、そこでの暮らしの恩恵を受けるにはどうすべきかを考え始めた。学生ローンが2万2434ドル(約325万円)、貯金が数百ドルの状態でブランドンがサンフランシスコに向かったのは2015年5月のことである。

正式なグーグル社員になるまで2週間あり、引っ越し手当は初給料の支給日まで支払われない。幸い、グーグルは新入社員が一時的に住めるキャンパス内の社宅(もちろん、Gスイート(GSuites)と呼ばれている)を用意していて、ブランドンは仕事が始まるまでそこに滞在した。

その間、彼は温めていた計画を実行に移した。地元の信用組合から9500ドルを借り、住まいとなるクルマを探すことにしたのだ。

ブランドンはカーゴトラック専門の中古車ディーラーであるグリーンライト・モーターズに向かった。1万ドル(約145万円)以内で買えるものはあまりなかった。しかし、駐車場の奥にトラックレンタル会社「バジェット」のオレンジ色のロゴがあせた白いトラックが置かれているのを発見する。ヘッドライトのひとつは緩んでいて、屋根にはひびが入っており、床も修繕が必要だった。それでも、ブランドンはこのトラックに心惹かれた。

子どもの頃、たくさんの時間を過ごした祖母の家でのひとコマを思い出したのだ。祖母の家には持ち手がセラミックでできた古い銀製品がたくさんあった。ある日、ブランドンが持ち手が割れていたり、欠けているスプーンを避けていることに気づいた祖母はこう言った。「ブランドン、壊れたスプーンにも愛が必要なんだよ」16フィート(約4・88メートル)のボロボロのトラックを見ながら、祖母の言葉が甦った。

「このトラックに愛を注ごうと思った。きれいに掃除すればいい。必要なら修理だってできる」とブランドンは話す。彼はその場で購入を決めた。そして正社員として働き出したその日からの5年間、ブランドンはグーグルのキャンパス内か、キャンパスのすぐ近くに停めたこのトラックの中で生活した。

入社して1年後、グーグルは6桁ドルもの給料を稼いでいるソフトウエアエンジニアが、会社の駐車場に停めたトラックで生活しているという話を聞きつけ、キャンパス内に停めた車両で寝泊まりすることを禁止した。そこで、ブランドンは会社がある通りの向こう側にクルマを停めるようになった。

インテグレーターとセグメンター

仕事とプライベートをどのように分けたいかは人それぞれである。

労働者は大まかに2つのタイプに分けられるとペンシルベニア大学ウォートンスクールの経営学教授であるナンシー・ロスバードは指摘する。仕事と私生活の境界が曖昧でも気にしない「インテグレーター」と、仕事と私生活を明確に分けたい「セグメンター」だ。

ある調査でロスバードは「セグメンター」タイプの消防士の時間の使い方を調べている1。彼にはシフト終わりに決まって行うルーティンがあった。仕事靴をビーチサンダルに履き替え、家に帰ったら真っ先にバスルームへと向かう。また、仕事用のブーツは家に持ち込まず、シャワーを浴びて着替えるまでは子どもたちをハグしないというルールを設けていた。彼にとって物理的にも精神的にも仕事を家に持ち込まないことは、自宅での時間を大切に過ごすために重要だったのだ。

一方で、ロスバードの同僚である組織心理学者のアダム・グラントは「インテグレーター」である。彼は仕事と私生活の境界が曖昧でも気にならないタイプだ。「妻と出会うまで、私にとって理想的な土曜日の過ごし方は、朝7時から夜9時まで仕事をすることだった」と彼は自身のポッドキャストでロスバードに話している。「メールを未返信のままにしていると思うだけで身体が痛くなるんだ」。

グラントにとって仕事は疲れるものではなく、エネルギーを与えてくれる楽しいものなのだという。「僕にとっては、“映画を見に行ったから休まなくちゃ”と言っているようなもの」と冗談めかして話す。「そんなことしないだろう? 楽しむために映画を見に行って、実際楽しかったんだから休みなんて必要ない」

あなたの職業が火事の火消しだろうと、ビジネス上の問題の火消しだろうと、自分がインテグレーターかセグメンターかを知ることは、仕事とプライベートの線引きをしたり、どう働きたいかを上司に伝えたりするのに役立つはずだ。

例えば、セグメンターは勤務時間が定まっていた方が働きやすいかもしれない。インテグレーターは勤務時間を決めず、仕事の合間に運動や育児のような個人的なタスクを挟めたほうがやりやすいかもしれない。

マネージャーもこうしたタイプの違いに気をつけたい。同じような働き方が、どちらのタイプの労働者に対しても効果的とは限らないからだ。インテグレーターは自分のペースで仕事をこなせる柔軟なスケジュール管理を望むかもしれないが、予定が細かく定まっていることを好むセグメンターにとっては、その柔軟性がかえってストレスになることもある。

グーグルで働き始めたばかりのブランドンはインテグレーターだった。仕事とプライベートの区別はほとんどなかった。毎日、夜明け頃に起床して会社のジムで運動し、会社のバスルームでシャワーを浴びて、自分のデスクで仕事をし、会社のカフェテリアで夕食を食べてからトラックに帰宅した。

友人のほとんどもグーグラー(グーグルの社員)だった。トラックをイベント会場としたハロウィンパーティー「トラックorトリート」を主催し、トラックの白い壁に映画『ホーカスポーカス』を投影して同僚たちと鑑賞することもあった。職場と同じ建物で洗濯をし、洗濯中は毎回自分のデスクに座って終わるのを待った。予定がない夜はオフィスをぶらぶらして、寝る時間になるまでプログラミングをした。

「仕事量が多いわけじゃない。ただ他に何をすればいいのかわからないんだ」と彼は当時のブログに書いている。しかし、グーグルで働き始めて6カ月が過ぎた頃、起きてから寝るまでの70%から80%の時間を会社の事業を推進するために使っていることにブランドンは気づく。与えられた仕事を「ゾンビのように、ひたすらこなすだけの生活だった」と言う。

働いている時間とそうでない時間をより明確にする必要があるとブランドンは思った。そこで生活を変えることを決意する。働く時間を減らそうと思うだけではダメなことはわかっていた。仕事以外の時間を意識的に確保しなければならない。そのために仕事とその他の生活を分ける仕組みをつくった。

まずは勤務時間を設定してそれを厳守することにした。働く時間は朝8時から16時まで。16時になったらキャンパス内の別の場所でも、近くの公園でも、マウンテンビュー市街のカフェでも、必ず物理的に場所を移動する。それでも食事はキャンパス内で取ることが多かったが、仕事をしている建物と同じカフェテリアでは食事をしないようにした。

何年間かはこの新たなルーティンと仕事とプライベートの住み分けはうまく機能した。しかし、新型コロナウイルスのパンデミックで状況は変わってしまう。2020年3月、グーグルはオフィスを閉鎖する。これはブランドンにとって自宅の一部を失うことを意味した。エアビーアンドビーで部屋を1週間借りて滞在し、その後別の物件を2週間借りたが、グーグルのジムやカフェがすぐに再開される様子はなかった。好きな時にシャワーを浴びたいなら部屋を借りなければならない。

トラックは手放さなかったが、1年間カリフォルニアの海岸近くにある部屋を借り、そこでこれまでの習慣を新しい在宅勤務のライフスタイルに応用した。毎日同じ時間に働き、仕事用のデスクは仕事のためにしか使わない。「働くときはそこで働く。働いていないときは別の場所にいる」とブランドンは話す。

また、生活における仕事の役割を明確に決めることにした。「僕にとって仕事はいつだってツール、つまり生計を立てる手段だった」と語る。「特にグーグルのように、非常にアクティブで強い文化のある会社では、会社の文化を自分の文化にしたいかどうかを決めなきゃならない」ブランドンにとってその答えは「ノー」だった。

それは毎朝、文字通りオフィスで寝起きしていた人の決断としては意外なものに思えるかもしれない。しかし、ブランドンはプライベートと仕事の境界がどれほど簡単にあやふやになってしまうかを理解していた。ブランドンは仕事について話すとき、自身を「グーグラー」と呼ぶのではなく、「グーグルで働いている」と説明する。その言葉遣いにも、仕事は生活の一部でしかないという、生活における仕事の役割についての彼の考えが表れている。

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