〈急拡大するスキマバイト体験記〉「やり方、1回で覚えてね」ピークタイムの飲食店では無茶ぶりも当たり前の忙しさ。オジサン&20代女性記者が実際に応募してみた!
集英社オンライン / 2024年4月21日 17時0分
「スキマ時間を有効活用できる」との口コミで、非正規ワークのひとつの形として定着しつつあるスキマバイトサービス。面接も履歴書提出もなく、一日だけのスポットで入るバイトの現場はどのような世界なのか。集英社オンラインの記者が実際に働いてみた。
飲食店のピークタイムは鉄火場のような忙しさ
4月上旬、20代の女性記者が向かったのは都内の日本料理店。大手スキマバイトサービスA社のアプリで見つけたこの求人は、混雑がピークとなる午後7時30分から2時間、配膳補助やドリンク作り補助などの業務で、報酬は東京都の最低賃金(1113円)よりわずかに高い時給1200円という条件だった。
お店に到着すると宴会が盛り上がる時間帯ということもあり、店内は喧騒に包まれていた。60代くらいの女性従業員に声をかけると「A社さん来ました~」と大声で店長を呼ぶ。
数分して現れた店長に「スマホでQRコードの読み取りをしてください」と言われ、まずはA社のアプリで「出勤確認」をした。続いて店長が早歩きでロッカールームへと案内してくれる。制服に着替え、いよいよ厨房へ。ちなみに、制服には名札が付いていたが、自己紹介する暇もなく、業務中、従業員らは基本的に記者を「A社さん」と呼び続けた。
「ビール10本追加!」
「鍋ひとつ足りない!」
「デザートもう出しちゃって!」
厨房ではそんな指示が大声で飛び交い、着物姿の女性スタッフが走り回る鉄火場状態だった。その一角で店長は布巾を記者に渡し「これで洗った食器を拭いて。拭いたらこの棚に種類ごとにしまって」と早口で説明する。これが今日のメインの仕事らしい。
作業は単純だがそれほど簡単ではない。洗われてかごに山盛りにされた食器をひとつずつ拭いて、棚にずらりと並んだケースにしまっていくのだが、日本料理の食器は用途別に細かく分かれていて、どの食器をどこに収めるか、頭の中に入っていなければスムーズにできる作業ではない。
食器を収める場所を探して厨房をウロウロすると、パートらしき60代くらいの女性から「それここ!」「こっちじゃない!あっち!」と鋭い指示が飛ぶ。
そんな騒ぎの中でも、パートらしき仲居さんたちは宴会客の動向を冷静に分析していた。
「お客さんたち、ビールばっか飲んで全然食事に手をつけないの。お皿下げられなくて困るわぁ」
「せっかくの食事なのに全然食べてなくてもったいない!」
この先の仕事の段取りを気にしながら、料理に手がつけられない様子に心を痛めている様子だった。
70代のスキマバイトが来ることも
宴会のお客さんが帰ると、宴会会場の片づけに投入された。食べ残しが多くあるテーブルを店長やパートさんらと一緒に片づけていると、60代くらいのパート女性が指先をクイックイッと曲げ、声も出さずに記者を呼ぶ。
散乱しているテーブルナプキンをつまんで「この布をたたんでほしいの。やり方、1回で覚えてね」と言われて手本を見せられたが、早すぎてわからない。しかし、質問をしてはいけない雰囲気だ。
片づけが終わると店長に「時間になったからQRコードをスキャンして」と言われ、出勤時と同じようにアプリで読み取ると「終わっていいよ」とだけ言われ業務終了。私語を口にする余裕は一切なく、必要最低限の言葉だけを交わし、店長やパートさんらほかの従業員の名前も知らないままだった。
それでもパートの女性が「今日のA社さんは若くていいわね」と喜んでいたのは印象的だった。
彼女らによると、スキマバイトでやってくる人の年代層は10代から70代までと幅広い。多忙を極める飲食店で仕事の勝手もわからないなか、70代の人が働くのはさぞ大変だろう。
一方、40代のオジサン記者は倉庫からの荷出しの仕事に入ってみた。飲食店から注文を受けてラップや食器などの資材を配達する会社で、トラックに積み込まれる商品が間違っていないかチェックするのが主な仕事だ。
巨大な倉庫にトラックのプラットフォームが併設された現場に着き、「A社から来ました~」と声をかけると、その時間帯の責任者の男性社員に控室に連れて行かれる。毎日5、6人がA社アプリで応募してくるようで、控室には仕事内容を詳しく書いたマニュアルが人数分準備されている。
「QRコードの読み込みやったら、これ読んでおいてください。あ、始業時間になってから読み始めてください」
と男性社員。契約したバイト時間を少しでも超えて仕事に絡むことはさせてはいけないとお達しがでている気配だ。
記者が入った日に集まったのはほかに40~50代の女性が4人。うち40代の女性はこれまで6、7回この倉庫会社でスキマバイトに入ってきたといい「ほかにも派遣登録をしているけど、A社経由のバイトは空いている時間にぽっと飛び込みで入れるから便利は便利よね。ほかの会社でのバイトもいくつかやっているけど待遇はピンキリ。ここ(の倉庫会社)はその中でも一番働きやすいから何度も来てるの」と話した。
仕事が途中でも終了時刻で強制終了
次々と到着するトラック。そのドライバーたちが倉庫のあちこちから重そうな荷物を手作業で集めてどんどんとトラックに積み、その過程でバイトは内容に間違いがないかを確認していく。
ドライバーは相当な力仕事だ。一方のバイトは伝票を確認するだけなので力作業はないが、必死にこなさないと荷積みのペースから遅れてしまう。
4月からドライバーの勤務時間を抑制する法的規制が強化されたため、ドライバーは荷積みの時間を少しでも短縮したいと考えているようで、伝票チェックが遅れると足を引っ張ることになるという緊張感が張り詰めている。
重作業のドライバーを見かねたが、手伝うことはNG。「力作業はありません」との労働条件の厳守が徹底されているようだ。
バイトとドライバーが1対1で組んで、荷積みと伝票確認の息を合わせなければならないので、私語を交わすこともまったくない代わりに、ドライバーは少しのミスで注意や叱責をしたりする余裕もない。ここも、前出の日本料理店のように「猫の手も借りたい」状況で毎日スキマバイトが集められる状況は同じだ。
必死で伝票を追っているうちに終業時間を迎えると、経理の職員が「はいここまで。仕事やめてください」と打ち切りに来た。まだ伝票の残りはあったが、仕事はそこで終わり。ドライバーは「お疲れさまでした」とねぎらいの言葉をかけてくれて伝票を記者から手に取り、それまで二人でやっていた作業をその後は一人でやることになる。
効率はどうしても落ちるため、バイトがいる時間に少しでも作業を進めたいと考えるのは当然のことに思えてくる。
この職場も自己紹介をすることなく、社員やほかのスキマバイトの人と名前で呼び合う機会は最後までなかった。だが、私語を交わす余裕もないほど忙しいため、そうした人との関係をいちいち考えることもない。短い時間に一気に全力で走り切る短距離走を1本、走り終えたような気分になっただけだった。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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