「遺族年金がゼロって、まさかそんな…」67歳年上妻の急逝を見送った会社員夫、年収193万円ダウンにうなだれるワケ【CFPが助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月18日 7時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
夫婦どちらかが亡くなった際に受け取れる「遺族年金」。皆さんはこの制度を詳しくご存知でしょうか。驚かれることも多いのですが、遺族年金の支給額は「性別」や「働き方」によって大きく異なります。「遺族年金の平均額」などの情報の一部をチラ見し、「自分もこれぐらいもらえるなら、配偶者に万一のことがあっても大丈夫」と思っていると、自分は条件に当てはまらず1円も受け取れなかった…なんていうこともあり得ます。そこで、今回は必ず知っておきたい遺族年金の仕組みについて、CFP®・社労士の井戸美枝氏が解説します。
遺族年金の支給額は「性別」や「働き方」で大きく変わる
まずは遺族年金の概要を簡単にご説明しましょう。
いわゆる遺族年金には、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2つがあります。フリーランスや個人事業主など国民年金に加入している人が亡くなった際は「遺族基礎年金」が、会社員として働いていた人が亡くなった場合は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」が遺族に支給されます。
「遺族基礎年金」は、18歳未満の子がいる配偶者、または子どもが受け取れます。受給期間は、子が18歳になるまで。受給額は年81万6,000円の基本額(2024年度)に子の加算額が付きます。第2子までが1人当たり年23万4,800円、3人目以降は年7万8,300円です。
故人が会社員や公務員などで厚生年金に加入していたら、「遺族基礎年金」に加えて「遺族厚生年金」を受給できます。「遺族厚生年金」の支給の対象となるのは、妻、18歳未満の子ども、妻が死亡したときの年齢が55歳以上の夫などです。妻は終身、子どもは18歳になるまで受け取ることができます。
受給額は故人の「老齢厚生年金(報酬比例部分)」に4分の3を掛けた額(=75%)です。また、遺族基礎年金、遺族厚生年金ともに、遺族の年収が850万円以上あれば支給対象から外れます。
このように色々と条件があるため一見すると分かりづらいのですが、遺族年金の支給額は「性別」や「働き方」によって大きく異なります。
端的にいうと、会社員の夫が亡くなった場合の妻に対する保障は手厚いのですが、妻が亡くなるケースでは夫に対する保障は少ないのです。また、亡くなった人がフリーランスなどの第1号被保険者だった場合、遺族年金がまったく支給されないケースもあります。
ここでは2つの具体例で、もらえる金額の違いを見ていきましょう。
ケース1:会社員の夫Aさん、専業主婦の妻Bさんの場合
1つめのケースは、会社員として働いていた夫のAさんと専業主婦の妻、Bさんの世帯です。夫Aさんは持病が悪化し72歳で亡くなり、67歳の妻、Bさんが遺されました。子どもは独立していて、夫婦とは別の家で暮らしています。
【世帯構成】 ・夫Aさん…会社を定年退職し、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取り。72歳で死去 ・妻Bさん…ずっと専業主婦の67歳。老齢基礎年金のみ受け取り ・子ども…(独立済み)生前、夫Aさんは老齢基礎年金を78万円/年と老齢厚生年金115万円/年を受け取っていました。ずっと専業主婦だった妻Bさんは老齢基礎年金のみ78万円/年を受け取っており、夫婦の世帯年収は271万円でした。
夫Aさんが亡くなると、妻のBさんが受け取る年金は「遺族厚生年金」に切り替わり、金額は86万2,500円/年(=夫の老齢厚生年金115万円/年×75%)になりました。この金額だけみれば、Bさんが受け取る年金額は夫Aさんが生きていたときよりも多くなっています。
しかし、夫Aさんの老齢基礎年金78万円/年は、Aさんが亡くなった後は支給されなくなります。そのため、Aさんが亡くなる前の世帯年収は271万円だったのが、亡くなった後は164万2,500円に。年間で106万7,500円のマイナスになりました。
この夫妻の場合、住宅ローンを払い終えたマイホームを所有していて、「もしものときのために」と預貯金などの資産も準備していました。そのため収入はかなり減ったものの、妻Bさんはある程度の節約をしつつ、夫の死後も以前と同じ水準の生活を送ることができています。
ケース2:共働き会社員 Cさん、Dさん夫婦の場合
2つめのケースは、夫婦ともに会社員で共働き世帯の夫Cさんと、妻Dさんの世帯です。妻のDさんは病気を患い、短い期間で悪化。67歳で亡くなり、年下の54歳の夫Cさんが遺されました。子どもはいません。
【世帯構成】 ・夫Cさん…54歳の年下夫。会社員として勤務中 ・妻Dさん…会社を定年退職し、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受け取り。67歳で死去 ・子ども…なし生前、妻Dさんは老齢基礎年金を78万円/年と老齢厚生年金115万円/年、合計で193万円/年を受け取り始めたばかりでした。夫Cさんは年収300万円程度で、65歳に達していないため年金は受給していません。このときの世帯年収は約493万円でした。
先述しましたが、遺族基礎年金の対象者は、18歳未満の子がいる配偶者、または18歳未満の子ども。遺族厚生年金の支給の対象となるのは、妻、子ども、妻が死亡したときの年齢が55歳以上の夫です。
つまり、夫Cさんは、遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取れるいずれの条件も満たしていないということになります。そのため、妻Dさんが亡くなった後は、妻が受け取っていた分の年金額がすべてなくなり、世帯の収入は193万円もダウンすることに。Cさんは自分の収入だけで生きていかなくてはならなくなりました。
夫Cさんは、妻Dさんが亡くなったときに遺族年金がまったく受け取れないとは知りませんでした。それもあり、死亡保険を妻にかけることもしていませんでした。
この夫妻は、「便利な場所がいい」と都会の賃貸住宅に暮らしていたため、妻Dさんが亡くなった後は、遺された夫Cさんが1人で高い家賃を支払わなければならず、それも大きな負担となっています。Cさんは引っ越しを考えているものの、2人で暮らしていた住まいから離れる決断はまだできていないとのことです。
家計の支え手が女性の場合などは、事前にしっかりとした備えを
このように、配偶者が亡くなると、世帯全体の年金額は、おおむね5割〜6割程度に減ることがほとんどです。特に注意したいのは、家計の支え手が女性だった場合です。ケース2の夫Cさんのように遺族厚生年金の対象外となる可能性もあり、収入が大幅にダウンするケースもありえます。
亡くなった人が生活費が不要になるとはいえ、住居費や光熱費などの固定費はそれなりにかかります。大幅な収入ダウンで、家計を大きく見直さなくてはならないこともあるでしょう。よって、家計を支えているのが女性、あるいは共働きの世帯で夫婦の収入が同程度の世帯では、妻が亡くなった際の備えを優先させましょう。
特に住宅をペアローンで購入している場合は要注意。住宅の価格が上がっており、長期間にわたるローンを組む人が増えています。そのため、できるだけ妻の死亡保障を手厚くしておくことをおすすめします。
遺族年金は1940年代に設計され、稼ぎ手が男性だった時代に設計されました。そのため、女性が働き収入を得るようになった現在の社会状況にそぐわないものになりつつあります。社会保障審議会年金部会では、遺族厚生年金の男女差をなくすことなどが提案されています。
執筆/瀧 健 ファイナンシャル・ライター
監修/井戸 美枝 ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
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