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70代前半の交通事故件数は「30代前半と同水準」だが…日本人が「高齢者の運転は危ない」と信じて疑わないワケ【東大医学部卒の医師が警鐘】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年5月2日 12時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

マスコミによって報道される高齢者の交通事故。「免許返納」を促す言説が飛び交うばかりですが、はたして鵜呑みにしてよいのでしょうか。精神科医である和田秀樹氏の著書『老害の壁』(エクスナレッジ)より、高齢者を取り巻く「免許返納問題」について、メディアの偏向報道の危険性とあわせてみていきましょう。

高齢者が免許を返納しないのは「老害」なのか?

「お父さん、そろそろ免許を返納してはいかがですか?」と息子や娘から言われたことはありませんか。

親族の免許返納(運転免許の自主返納)について考えたことがあるかどうかを尋ねる調査によると、約半数の47%が「ある」と回答しています。その際、免許返納すべき親族の年齢は、「76〜80歳」が29%、次いで「71〜75歳」が27%となっています(駐車場やレンタカーなどのサービスを提供するパーク24株式会社の調査より)。

自分はまだ運転に自信があるのに、「免許返納しては?」と言われたらムッとしますね。でもそれを素直に聞き入れず、「まだ運転を続けたい」と言えば、「親父、それって老害だよ」と叱責されるかもしれません。それが嫌で、渋々免許を返納してしまう高齢者も多いのではないかと思います。

高齢者に免許返納を促す理由の1つが、認知機能の低下。すでに75歳以上のドライバーには、免許更新時に認知機能検査を行うことが義務づけられています。

さらに2022年5月からは、一定の違反歴がある75歳以上のドライバーに対し、免許更新時に運転技能検査が義務づけられました。試験コースを運転して安全運転ができるかどうかを判定する試験ですが、これを受けて70点以上(100点満点)取って合格しなければ更新は認められなくなりました(一種免許の場合)。

このように、免許返納の外堀は着々と埋められています。なぜ高齢者だけが、免許更新のとき、これほどまでに高いハードルを課せられなければならないのでしょうか?

追い打ちをかけるように、マスコミが「高齢者の運転は危ない」というキャンペーンをはっています。

特にひどいのがテレビのワイドショーですが、高齢者がアクセルとブレーキの踏み間違いなどで事故を起こすと、「それみたことか。高齢者の運転はやっぱり危ないでしょ」と言わんばかりのニュアンスのコメントをたれ流しています。

人身事故でも起こそうものなら、「こんな爺に運転させるなんて狂気の沙汰」くらいの激しい言い方をして、高齢者の免許返納を煽っています。

テレビの影響力というのは大きいですから、まだ運転できると思っている高齢者も、こんな番組を見せられたら、「俺もそろそろ返納したほうがいいのかな?」と思ってしまうに違いありません。

高齢者の免許返納は“死活問題”

免許返納を煽る番組のほとんどは、東京のキー局で制作されています。そのせいか、地方の事情は一切考慮されていません。

今の地方は車社会。車がなければ、買い物もできません。日本には、近くに鉄道もバス路線も通っていない地域がたくさんあります。そんな地域に住む高齢者が免許返納することは、まさに死活問題。地方では一番近いスーパーマーケットが5キロ先、10キロ先といった地域も珍しくありません。

そんな地域のお年寄りから免許を取り上げるのは、まさに「足を奪う」ことにほかなりません。もはや誰かの手を借りなければ、買い物もできなくなってしまうのです。

物理的な問題だけではありません。免許を返納すると、健康まで損なわれることがわかっています。

具体的な数字で示しましょう。筑波大学が車を運転する65歳以上の約2,800人を6年間にわたって追跡した調査結果によると、免許を返納した6年後の要介護認定のリスクは2.2倍にも上昇することがわかりました。

車しか移動手段を持たない地方の高齢者が免許返納すれば、外出の機会が減りますから、運動しなくなります。その結果、筋肉量が減るなどして、自立歩行ができなくなる可能性があります。また、外出せずに自宅にばかりいて人と接する機会が減ると、脳への刺激が少なくなることから、認知症を発症するリスクも高くなることは十分予想できます。

コロナ自粛でフレイルに

高齢になると筋肉量が減って運動機能が低下します。これをサルコペニア(加齢性筋肉減弱現象)といいますが、高齢者でも運動を続けていれば、筋力低下をある程度防ぐことができます。逆に、運動しなければサルコペニアがどんどん進行し、ほとんど歩けなくなるフレイル(虚弱)の状態に陥ります。

2020年、新型コロナウイルスの感染対策の名の下に、外出自粛が要請されました。コロナの第1波(2020年3〜5月)の頃から、買い物や散歩のための外出はしてもよいと言われていたのに、これまたワイドショーが、「高齢者が出歩くのは危険」と煽った結果、ほとんどの高齢者は外出自粛の要請におとなしく従いました。その結果、サルコペニアやフレイルになる高齢者が急増しているようなのです。

コロナの前は、日本の高齢者医療に携わる医者たちが、フレイル対策として高齢者は外を歩くようにと言っていたのに、コロナ騒動が始まったとたんダンマリを決め込みました。いったい何を考えているのでしょうか。

若い人なら自粛して筋力が落ちてもすぐに回復しますが、高齢者はそうはいきません。1ヵ月も家に引きこもっていたら、歩けなくなってしまうのです。

データをみて驚愕…高齢者が運転事故を起こす確率は?

話を免許返納に戻すと、75歳の免許更新時に認知機能検査が義務化されたとき、ワイドショーで高齢者に街頭インタビューをしていましたが、私はそれを見て目を疑いました。

なんとその場所が東京の巣鴨だったのです。巣鴨は「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる場所ですから、高齢者が多いのは確かです。しかし、巣鴨にはJRの駅がありますし、東京のど真ん中に住む高齢者で運転免許を持っている人は少ないでしょう。どうして車しか移動手段がない地方の高齢者にインタビューしないのでしょうか。

テレビ局の上層部がケチなので取材交通費を出してくれないのかもしれませんが、インタビューするなら、せめて東京都下の八王子市くらいで聞くべきです。現場のスタッフにはその程度の想像力もないし、正しい報道をしようという気概もないのでしょう。

逆に彼らは、高齢者いじめのようなことは平気でします。彼らが高齢者の免許返納を煽る根拠に、「高齢者の運転は危ない」があります。

確かに、ワイドショーを見ていると、しょっちゅう高齢者の運転ミスによる事故が報道されています。

ところが、統計数字を見ると高齢者の事故はそんなに多くはありません。むしろ、若い人よりも事故が少ないのです。

警察庁交通局が発表している「令和3年の交通事故状況」によると、原付以上の免許をもっている人口10万人当たりの年齢別事故件数では、もっとも事故を起こしているのが16〜19歳の1,043.6件、次いで20〜24歳が605.7件となっています。

これに対し、高齢者でもっとも事故を起こしているのは85歳以上で524.4件。次いで、〜84歳が429.8人、75〜79歳が390.7人となっています。続く70〜74歳は336.0人で、30〜34歳の329.1人と同じくらいです。

いずれにしても、交通事故を真剣に減らしたいと思っているなら、事故を起こす確率が高齢者よりはるかに高い10代から20代前半の若者の対策を考えるほうが先でしょう。

このように、数字で見ると高齢者が事故を起こす確率は決して突出しているわけではありません。

にもかかわらず、「高齢者の運転は危ない」と思ってしまうのは、ワイドショーを始めとしたマスコミが煽っているだけなのです。統計を見れば明らかなことなのに、フェイク・ニュースを流しているといってよいかもしれません。

和田 秀樹 精神科医 ヒデキ・ワダ・インスティテュート 代表

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