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エイジング・アンカー(高齢期に、もっとも大切にしたいことは?)/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2019年8月1日 18時0分

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川口 雅裕 / NPO法人・老いの工学研究所 理事長

アメリカの心理学者、エドガー・シャインが提唱した有名な「キャリア・アンカー」は、職業人が自らのキャリアの形成・選択を考える際に、もっとも大切にしたい(どうしても犠牲にしたくない)価値や欲求のことを言う。ちなみに、アンカー(anchor)は船の錨(イカリ)のことで、“動かせない点”といった意味である。そしてシャインは、キャリア・アンカーを、①管理(組織の中で、責任ある役割を担うことを望む)、②技術的能力(専門性や技術の向上を望む)、③安全・安心(安定した組織に属していることを望む)、④創造性(新しいことをする、創造的な仕事に取り組むことを望む)、⑤自律(自分の思うように、独立した仕事をすることを望む)、⑥奉仕・貢献(社会貢献や他者への奉仕が実感できる仕事を望む)、⑦挑戦(高い目標、困難な問題の解決などに挑戦することを望む)、⑧仕事と生活のバランス(個人の生活や家族と、仕事とのバランスがとれるように働くことを望む)の8つに分類した。

職業人生で、このキャリア・アンカーを意識しておくことは重要だ。自分がどうなりたいか、何を目指すか、何を大切にして働いていくのかを全く考えずに、あるいは曖昧にしたままで働きつづけるのと、そうでないのとは、与えられた役割や目の前にある仕事が持つ「自分にとっての意味」が大きく変わってくるからである。自分の今の役割を果たすことは、将来の目指す姿につながっていると思えれば、やる気も湧いてくる。自分の今の担当業務が、自分のアンカーと一致していると意識できれば、その取り組み姿勢はより強化される。また、自分のアンカーを知っておけば、自らの仕事に対する価値観を分かりやすく会社・上司・同僚に言葉で伝えられるから、より協調的な関係で仕事に取り組めるようになるはずだ。

キャリア・アンカーの理解は、職業人生の充実に大いに寄与する。同じ発想で、高齢期の充実に大いに役立てていただくために提唱したいのが、「エイジング・アンカー」である。エイジングは、年齢を重ねていくこと。「キャリア・アンカー」が、職業人生で大切にしたい(どうしても犠牲にしたくない)価値や欲求のことだから、「エイジング・アンカー」とは、高齢期の生活において、大切にしたい(犠牲にしたくない)価値や欲求のことを言う。私たちは、次の10の分類を行った。

これら10個の、どれにどの程度の価値を見出して(大切にして)高齢期を生きるか。エイジング・アンカーの自覚は、人生100年時代の長い高齢期を充実させるために、極めて重要である。アンカーを自覚することによって自分なりの理想的な暮らしがイメージできるから、現状に対して満足か不満足かの判断でき、問題や対策が発見できる。自分なりの高齢期の充実を図るには、どうすればよいかを考えるきっかけになる。これは、何となく現役時代の延長で高齢期を迎えてしまい、価値や欲求について考えるきっかけを持たず暮らしていく人たちとは大きな違いである。

もちろん、10の中のどれを重視するのが良い・悪いという話ではない。それぞれが生きてきた人生も違えば、今置かれている環境も違うし、これからどのように暮らし、どのように死にたいかという希望も違っているからだ。また、年をとればとるほど人は多様になっていくから、どのアンカーが高齢期の幸福に寄与しやすいかを一様に語ることはできない。たった一つのアンカーを選ぶ人もいれば、3つ、4つと選択する人もいるだろうし、環境の変化や身体的変化によって、アンカーが変わっていくこともあるだろう。そういう意味では、柔軟に、気楽に自分の高齢期の暮らしについて考える材料にしていただければよい。

高齢者自身にとってだけではなく、次世代、子供世代にとってもエイジング・アンカーを理解しておくことは意味がある。高齢の親がどう生きるかは、離れて暮らす子供たちの大きな関心事(心配事)になっていて、本来は親子の間で十分な対話が求められるが、一般に物理的・心理的距離感から、しっかりと踏み込んだ内容の対話がなされている状況とは言いがたい。そんなとき、エイジング・アンカーを両者で見ながら対話に臨めば、いくぶんかでも親の気持ちや状況が分かりやすくなるだろう。また、子供世代も50歳代も後半になってくれば高齢期を意識し始める。いつか訪れる高齢期をイメージし、少しづつでも準備を進めるためにエイジング・アンカーはよい示唆になるはずである。

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