営業改革を考える (4) 営業改革の前提は狙いの共有化/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2016年2月10日 7時7分
日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社
~営業改革を考える (3) SFAはなぜ失敗するのか?~ の続き
この記事シリーズの中で既に何度か強調しているが、営業改革を本気で成功させようと思ったら、「戦略的狙い」をしっかり考えて社内で共有化しておく必要がある。
例えば医療機関をターゲットとしている首都圏の医療システムのベンダー企業だったら、「競合に先んじて顧客の事情を理解し、より適切な提案をできるようにするため、5つに絞り込んだ重点ターゲットの医療法人に対し、分厚いサービスを提供してリピート率を倍増する」という具合である。
そしてその「戦略的狙い」に基づいて営業スタイルや重点、プロセス、体制が変わるという具合に「思想統一」することで、一貫性をもって徹底されるようになることは前々回お話しした通りである。
先の医療システムのベンダーならば、5つの医療法人に専属の営業チームが密着対応し、それぞれの医療法人ごとの重点課題とその対応体制等を明確化する。営業プロセスを標準化し、ステップごとに上司との間に決められたチェックポイントで正しい情報をやりとりできたかが確認される。結果目標だけでなく、そのプロセス目標をクリアしたかが営業員、そしてチーム長の評価にもつながる。と、こんな具合だ。
実際にはこうした「戦略的狙い」が明示化・共有化されずに、曖昧なまま営業改革が推進されようとすることが世の中には多い。するとどうなるか。
生産部門や物流部門の改革と違って、現場が目の前になく、モノを物理的に扱うわけでもない営業の改革の場合、改革のイメージが共有化されにくい。しかも営業の人間には世間慣れしてしたたかな人が、特に幹部に多い(別段、けなしているわけではないので誤解しないで)。
そうした人々に対し、本質的な目的から説いて納得を得ることなしに、そしてトップが本気を示すことなしに、ミドルクラスのマネージャーが「とにかくやり方を変えてくれ」「こうしてくれ」といきなり要請しても、反発されるか、表立って反対されなくとも実質的に無視されるのが落ちである。
これはある大手メーカーで聞いた話である。
経営企画担当の役員がそうしたやり方で営業部門の幹部に対し改革の検討を要請した。全く質問も出ずにミーティングがほとんど終わり掛けた間際、営業担当の役員が一言、「で、それで結果が出なかった場合、誰が責任を取るのですか?」と質問した。
経営企画担当役員がはっきりと答えられずにいると、件の営業役員は「ではそれがはっきりしたら改めてご説明いただけますかな?」と締めて、その改革の動きは実質的に頓挫してしまったそうだ。
要は、「経営としての狙いと覚悟を明確化しないまま、ワシらに難しい役割を押し付けようったって、そうはいかんぞ」という言外の拒絶に遭ったのである。
かといって、「営業力強化」とか「業務効率化」など、とってつけたような建前だけのスローガンを何度連呼したところで納得してくれるはずもない。
経営トップ自身の言葉で、腹を括っていることが伝わらないと、営業幹部としてもへたに話に乗れない。あとで梯子を外されるのは誰でも嫌なのだ。
これが分かっているので、弊社が行う営業改革プロジェクトは、営業本部長や事業本部長といったポジションの人に(少なくとも「説得」パートを)主導していただくことを条件とするのが基本だ。
営業改革を始めるにも成功に導くにも、「何のために営業改革が必要だと経営が考えているのか」という「戦略的狙い」を、腹を割って納得してもらい、共有化することが不可欠である。このことは何度繰り返しても足らないくらい重要なポイントである。
(本稿は2013年3月のコラム記事に加筆修正したものです)
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