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新規事業における素朴な疑問 (4) 再チャレンジへの狭き道/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2015年9月3日 7時5分

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日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

新規事業のコンサルティングをやっていると、嫌でも失敗事例に関心が強くなる。

クライアント企業に限らず、色々な企業関係者に尋ねることがある。新規事業を担当している方もいれば、既存の本業を担当している方もいるが、概ねの反応は似ている。

「新規事業での失敗事例は多いですか?」とお訊きすると、ほぼ確実に「いやぁ恥ずかしながらウチは山のように失敗を重ねていますよ」といった答が返ってくる(もちろんご当人の体験ではなく、会社としてという意味で)。

そこでさらに突っ込む。「そうした失敗を体験した人たちは、今はどうされているのでしょう?」と尋ねると、ここから先は企業によって大きく2つに分かれる。

一番多いのは、「(失敗した新規事業に中核として)関係していた人たちの多くは、社内の別部門で別の(新規事業以外の)仕事を担当しています」というものだ。往々にして付け加わるのが「上の憶えがめでたい(一部の)人は別の新規事業を担当していますがね」という皮肉っぽいコメントだ。つまり大半の人は別部署に飛ばされる、という話だ。

でもさらに突っ込んで「その(社内の別部署に飛ばされてしまった)人たちには、その後“再チャレンジ”の機会はあるのですか?」と尋ねると、事態はもう少し冷酷になってくる。

過去にお聞きした伝統的な大企業では「結局、子会社に片道キップで飛ばされる」というのと、「将来うだつが上がらないことを見越して自分から辞めてしまう」パターンが少なくなかったようだ。景気が回復し人手不足が表面化した最近はともかく、この十数年間は一度ミソをつけると復活は難しかったのだ。

でも新規事業が失敗に終わったとき、その事業に携わった人たちをどう処遇するのかは、2つの観点から実に重要な経営判断なのだ。

1つは「(参考となる)人材モデル」の観点だ。あるいは、後に続く人たちをビビらせるのか、それとも「よっしゃ俺がやってやる」と思わせるのかという、モチベーションの観点だ。

新規事業には失敗がつきものなので、社内の人材がどんどん挑戦してくれるようにもっていきたいものだ。でも一度失敗すると冷遇されるようでは、よほどチャレンジ精神が強い人材しか手を上げてくれなくなってしまう。実際、小生が知っている某有名企業では過去にそうした慣例があったためか、経営者肝いりの新規事業ながら、中堅(マネジャー)クラスのプロジェクト参加については説得に苦労していた。

実は経営者の方々に聞いてみると、新規事業に失敗した中核メンバーを別部署に異動させる意図は、罰を与えるのではなく、むしろ「針のむしろ」状態から避難させるための「親心」的な処遇だったりすることも少なくない。

でも残念ながら社内の他の人たちからはそう見られず、「あ、あの人、飛ばされた」と判断される(当人も、です)。その後、本人に再チャレンジの場を与えない限り、周りは「ウチはやっぱり失敗すると片道キップだよな」というように評価し、「暗黙のルール」として社内に定着するのだ。

もう1つは、新規事業で苦労した当の「人材の活用」という観点だ。そうした人たちは様々な経験を通じて経営センスや交渉スキルなどの面で格段の成長を遂げていることが多いのだが、先に挙げたケースのように全く活かすことができていない企業が少なくない。これは実にもったいないことだ。

本業では既に事業プロセスや流通が確立しているため、事業担当者たちが悩むのは、新商品・サービスの企画や業務プロセスの改善など、ある意味限定された部分になりがちだ。それに対し、新規事業では何から何までゼロベースで構築する必要がある分、事業の価値や顧客へのマーケティングなど経営の本質に関わる部分を根本から考える機会が与えられる。

既存事業では所与だった自社の「看板」が簡単に通じない分野で、どうやって価値を創り出し、市場関係者の信頼を勝ち得ていくのか。社内の誰にも分からないため、何度も独自の仮説を立てては検証し作り直す。関係者に尋ねまくって市場の実態やユーザーの本音をすくい取り、試行錯誤ながらも事業の形を作っていく。

全て他の事業にも応用できる体験とノウハウであり、そこで得た教訓は教科書やセミナーなどでは決して得られない、貴重な1次情報だ。

そして新規事業担当社なら誰でも一度は経験するような、堂々巡りや勘違い。そうした回り道を極力避けるすべも、一度修羅場を経験した担当者ならある程度身につけているものだ。

新規事業開発・推進の渦中で苦労した人たちは、「あのような手は絶対避けるべき」「あそこをもっと押せば道は開けたはず」など、何度も頭の中でシミュレーションを繰り返し、「今度こそは」という気概と知恵に溢れているはずだ。そのような人材が社内にいるというのに、それを活用しないままでいる(場合によっては社外に流出させてしまう)なんて、何ともったいないことだろう。

実は冒頭に挙げた、「企業によって大きく分かれる」2つのパターンの残る一つは、こうした失敗体験のある人材をむしろ優先的に次の新規事業の推進に携わらせるというものだ。

欧米の成功しているベンチャー企業やVCでは主流的な考え方だが、日本ではリクルート以降の、比較的「新興」に属する企業群でようやく根付き始めた程度かも知れない。でも伝統的な日本の大企業でも是非、試してみる価値のある考え方だと思う。

(本記事は2014年11月12日に掲載されたものを再編集しております)

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