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「女性の活用」と高齢期の幸福度/川口 雅裕

INSIGHT NOW! / 2014年12月1日 16時0分

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川口雅裕 / 組織人事コンサルタント

女性高齢者が男性高齢者よりも幸福である理由。【老いの工学研究所のHPに掲載したコラムを、転載しました。】

女性高齢者は、男性高齢者よりも幸せであるようだ。次の表は、現在の幸福度を100点満点で採点してもらったものだが、女性が3~5ポイント、男性を上回った。(老いの工学研究所調べ。2013年)



「平成21年度国民生活選好度調査」を見ると、高齢者の幸福度(10点満点)は次の通りとなっており、やはり女性が男性を上回っている。(※80歳代のデータはない)



女性高齢者が男性高齢者よりも幸福である理由を、いくつか考えてみよう。

第一に、女性は地域と関わりながら暮らしてきており、高齢になってもその関わりが生活の充実をもたらしていることだ。男性は仕事場で過ごす時間が長く、地域との関わりがないために、引退してから手持ち無沙汰になりがちである。

第二に、子育てに注力してきたので子供との心のつながりが強く、高齢になってからの子や孫との会話が男性よりも多いことである。子から様々な本音の相談を受けるのは母親であり、父親とのコミュニケーションは間接的であったり、表面的であったりする。子や孫との頻繁で親密な交流は、高齢期の励みとなる。

第三に、女性には炊事・洗濯・掃除などの家事をする力があるので、家庭における役割や存在価値が明確になっている。男性が仕事に行かず、稼ぐのをやめると、その役割は曖昧になり存在感も低下するが、その分、さらに女性の存在感は大きくなる。自分の役割や価値がはっきりしているのは、高齢期のやりがいとなるだろう。

第四に、仕事に集中し、忙しく働いた男性に比べて、空いた時間を埋めるコツを会得しているのが大きい。用事がなくても、暇な時間を持て余しても、男性のようにそれに焦りや罪悪感を覚えることなく、楽しんで時間をつぶす術を知っている。遊ぶ力があると言ってよいと思うが、これは時間に余裕のできる高齢期には欠かせないスキルである。

第五に、謙虚である。高齢女性は、「養ってもらっている」「食べさせてもらっている」という謙虚な気持ちを持って生きてきた。このような態度を持っているから、女性は周囲と調和的に関わることができる。「俺が食べさせてやっている」という自負や、得てきたカネや地位を誇りにしているような男性には、残念ながらこのような謙虚さがないので、周囲と良好な関係を築くのが難しい。

地域との関わり、子とのつながり、家事の能力、遊ぶ力、謙虚さ。並べて見れば一目瞭然、これらの高齢女性が持っている力や姿勢は、地域や家庭に押し込められてきた環境によるものだ。言い換えれば、女性差別の結果として、高齢女性が幸福度を高めているのではないかと考えられる。

さて昨今、企業はもっと女性を活用すべきだという議論が盛んである。処遇形態の多様化・弾力化、労働時間の短縮、管理職への登用促進など様々な面を改善して、女性にもっと活躍してもらおうという動きは、1986年の男女雇用機会均等法のときに比べても、はるかに本気度を感じる。もちろんこれは素晴らしい機運であり、遅すぎるくらいであり、「女に仕事は向かない」といった根拠のない思い込みで女性を差別してきたことを、大いに反省すべきだ。しかしながら、高齢女性が女性差別の結果として幸福を得られているのであれば、今後、男と同じように仕事に駆り出されることによって、将来、高齢女性の幸福度が低下してしまうのではないかとも考えられる。

高齢期に女性は幸福になるのだから、女性差別はこれまで通りにしておくべきだと主張したいのではない。「女性の活用」で、男はそのまま、女も男と同じように働くようになってしまえば、女性までもが地域や家族との関わりを失い、高齢期の幸福度が低下してしまうかもしれず、そのような事態は避けるべきだということである。高齢期の幸福度を高めるためには、男性も若いうちから地域や家族との関わりを持つこと、女性もこれまでのような力を失わないように働くことが肝要になる。「女性の活用」とは、女性に男性のような働きぶりを求めるのではなく、男女が仕事・家族・地域に関する役割を上手に分担するように努めることだと理解すべきだ。それは、高齢者の幸福度が高い国づくりにもつながっていくはずである。

高齢社会に関するデータやコラムは、こちらから

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