東北大・大野総長に聞く「生成AI時代の大学の役割」 人間とAIの「知性の違い」とは?
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年3月29日 12時13分
東北大の大野英男総長
政府が創設した10兆円規模の「大学ファンド」初の支援対象候補に選ばれた東北大学。 同大の大野英男総長は、電子が持つ磁石の性質(スピン)を利用する半導体技術「スピントロニクス」研究の第一人者でもある。
大野総長は2011年に「希薄磁性半導体における強磁性の特性と制御に関する研究」で「トムソン・ロイター引用栄誉賞(ノーベル賞有力候補)」を受賞した。スピントロニクスを応用した半導体は、消費電力の大幅な低減やデータ処理の高速化ができ「産業界のゲームチェンジ技術」と期待されている。
そんな大野総長は、生成AIの動きをどう見ているのか。生成AI時代に大学はどんな役割を果たせると考えているかを聞いた。前編、中編に続きお届けする。
●生成AI時代 大学はどんな役割を果たせるか
――東北大は23年5月、全国の大学に先駆けて生成AIの業務活用を始めました。大野総長は、生成AIの可能性をどう見ていますか?
本学は、生成AIのベースとなる大規模言語モデル(LLM)の研究で、日本有数の研究者のグループを有しています。元Googleの鈴木潤言語AI研究センター長のリーダーシップもあり、多彩な研究活動をしています。
生成AIは極めて大きなインパクトを社会にもたらしています。その開発も利用もとどまるところを知りません。AIが社会に浸透すると、倫理や法制度も含めたルールメーキングが極めて重要になるのはご存じの通りです。教育も変わっていきます。
同時に非常に多くの電力が消費されるようになります。私はAIが発展する上での課題の一つに、エネルギーや物理的な限界があると考えています。情報処理をいかにして省エネにするか。これは、これからの肝になるでしょう。
――そう考えると大野総長が研究してきた「超省電力」のスピントロニクス半導体は、まさしく産業界のゲームチェンジ技術となりそうですね。
一般的には、物理的な限界を十分に考えずに、テクノロジーがどう発展していくかを考える傾向があります。ただ私は、最終的にエネルギーの問題をいかに克服するかが、テクノロジーの将来を決めると見ています。
生成AIについては、もう一つの疑問があります。なぜあんなにアンストラクチャード(構造的でない)な情報を供給することによって、あたかも知性のあるような応答ができるのかということです。学内の専門家もそれは良く分かっていないと言います。先日、人工知能を専門とするチリツィ・マルワラ国連大学学長と話をしたとき「AIは過去の情報を組み合わせているだけなので、新しいものではない」としていました。
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