SDVで「ニッポン出遅れ」論が意味すること
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月22日 7時12分
ただし、クルマの場合、コンピュータのOSにあたるものが現状存在しない。限られた範囲の組み込みソフトとして、別々に開発された制御ソフトウエアを先祖として発展が始まり、あまりにも長きにわたって、増築を繰り返されてきたという経緯があるからだ。
極論をいえば、言語が異なるプログラムを通訳を介してつなぐケースなどもあり、複雑になり過ぎている。何か新しい機能を盛り込もうとすると、増築した各ソフトウエア間の整合性を全部チェックし直さなければならない。それは新型車の開発のたびに毎回発生する無駄な作業なので、コンピュータのOS同様に、共通機能をある程度集約して標準化、汎用化を進め、新機能の搭載が一括でできるようにしたい。
ところが出力する先がモニターと通信と印刷くらいしかないコンピュータと違って、クルマは制御先の因子数が圧倒的に多い。そこに対してどうやって統合して、汎用化するかについて、まだどこの誰も具体的にこうすれば良いという答えを導き出せていない。なのでまさにこれからその答えを探す戦いが繰り広げられていくことになる。つまり、クルマのOSが求められるようになり、そこからSDVが重視されるようになってきたわけだ。
●テスラの優位性
歴史的に見て、クルマに最初に搭載されたソフトウエアは、エンジンの制御である。それからトランスミッションやアンチロックブレーキ、電制ステアリング、車両姿勢制御などの制御ソフトウエアがどんどん増築されていった。例えばエンジン制御の組み込みソフトが開発された時には、まだまだほかの制御がどういうものになるかは全く分からなかった。
もちろん関係性の高い制御同士では、ある程度統合が進んだケースもある。例えばエンジンとトランスミッションの制御だ。少し前に流行ったダウンサイジングターボと多段変速ATは、両者の統合制御で初めて成立したものだ。エンジンにしろトランスミッションにしろ、一度開発されたら数十年使うものであり、それらを全部いっぺんにやり直すタイミングは事実上ないので、現実問題としては特別に擦り合わせが重要なところを重点的に統合しつつ、その他の部分はやむを得ず誤魔化しながら増築を続けてきたという歴史がある。
というところでテスラが出てくる。テスラの場合、例外なくEVであり、まずエミッション関係の制御が全部いらない。エンジンに比べればモーターとパワーコントロールユニットは種類が少ないので、そもそもの順列組み合わせが少ない上、当初はクルマまるごと1台がブランニュー開発なので、10年前に作ったような古い組み込みソフトと新たなソフトを擦り合わせて作動させる必要がなかった。だから全部が同世代で、一括開発することが可能だったのである。それがアドバンテージになったのは確かで、それをもってテスラのソフトウエアの優位性を唱えるのは、確かに間違っていない。
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