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『キャプテン翼』が連載終了 その功績と“機会損失”を振り返る

ITmedia ビジネスオンライン / 2024年4月25日 8時5分

 このように多くの国・地域で放送され、人気を博していた『キャプテン翼』だが、その収益を権利元である集英社をはじめとした日本企業が十分に獲得できていたわけではない。

 当然、海外の出版・放送関連企業は日本企業との契約の上で流通させていたはずだが、契約の履行管理や著作権の管理は困難を極めたと想定される。当時の環境では放送などの実態の把握が難しく、また契約順守意識の低さから、キャプテン翼に限らず多くの放送・出版コンテンツにおいて許可のない再販売や海賊版の流通が行われていた。もちろん、海外での著作権管理が難しかったことも原因の一つだろう。

 現在も世界中で『キャプテン翼』が人気を博し、多くの地域から視聴体験が寄せられていることから考えると、日本企業が十分な対価を得られたとは言いがたい。結果として、相当な機会損失が生じてしまったと考えられる。

 もちろん、これは過去の話であり現在は異なる。現在は、権利元もしくは権利を譲渡された日本企業が直接現地でビジネスを行う、あるいは国・地域での配信制御が可能な配信事業者と直接契約を行うなど、権利元に収益が入る環境が整っている。

 先に紹介したアラブ圏においても、紀伊國屋書店が企画し、アラビア語に翻訳された『キャプテン翼』の漫画単行本が正規ルートで流通しはじめている。

●アラブ圏の高い「文化の壁」乗り越える

 アニメでも、2023年にはサウジアラビアの企業が『キャプテン翼』のライツ事業を手掛けるTSUBASAおよび電通と提携し、中東・北アフリカにおけるアニメ最新シリーズの独占配信権を獲得するなど、アラブ圏での市場拡大が進められている。また、中東最大級のポップカルチャーイベントであるMEFCC(中東フィルム&コミコン)に高橋陽一氏が招待されており、今後は日本を上回る市場に成長することが期待される。

 なお先に述べたように、アラブ圏では『キャプテン翼』の題名はかつて「Captain Majid」とローカライズされていたが、アラビア語版単行本やMEFCCの紹介では「キャプテン翼」(Captain Tsubasa)と原作に準拠している。文化・宗教に厳しいアラブ圏において、日本語の原作表現を尊重するように変化してきたことは、当該地域において『キャプテン翼』と、日本のアニメ・漫画が深く受け入れられていることの証左といえる。

 本稿で述べたように、『キャプテン翼』は40年以上愛され続ける日本を代表するコンテンツであり、ポジティブ・ネガティブ両面におけるコンテンツビジネスの歴史がひもづいている。

 漫画連載は終了してしまうものの、まだ翼たちの戦いは続いている。最新シリーズで描かれているオリンピック、そして当初からの翼の目標であり、日本サッカーファンの悲願であるワールドカップ優勝に向け、新たな形態での連載をいちファンとして待ち続けたい。

●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 

 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。

 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。

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