着物の「脱恐竜化」目指す 京都の老舗「小田章」5代目が語る、120年目の事業転換
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年10月26日 9時0分
「着物の着方はこうでないといけない」という固定概念があったり、業界で働く上でさまざまな国家資格が必要だったり、守ること自体がビジネスになってしまっている面もあります。そうなると着物はますますファッションから遠ざかる一方です。
――意外と知られていませんが、着物を仕立てる「和裁技能士」は厚生労働省の国家資格です。着付けにおいても「着付け技能士」は2010年から同じく厚労省の国家資格になり、より入口が狭くなっていますね。
着物も他の衣服と同様、本来その着方は自由なものでした。もともと、その人の個性を表すファッションに対して「こうでなければならない」なんていう決まりはないのです。こういった流れが、着物をファッションとしてつまらないものにしています。「お国の力をお借りして守ろう」「伝統産業だからなくさないように守ろう」という考え方自体を否定するわけでもありません。ただ、着物の進化を止めたくないと思うのです。
私は、必要のない衣服は滅ぶしかないと考えています。例えば、以前は着崩したファッションの代表格とされていたアディダスの服は、今やグッチなどのハイブランドとコラボしています。昭和の時代には、スニーカーを履いてホテルに食事に行くことはありえないことでした。革靴でないといけなかったわけですね。ところが今ではこうしたフォーマルな場でもスニーカーは市民権を得ています。
こうしたファッション一つをとってみても、20~30年前の常識が通用しなくなることが当たり前に起きています。これは着物の歴史を振り返ってみても同様なのです。ファッション自体が時代と共に移り変わるものなのに、着物文化を不変のものとして守ろうとしていくのは、さながら“恐竜”のようだと思います。
もちろん、工芸品や美術品として高く評価して、後世に残していくことは大切です。ただ、それはおしゃれなもの、ファッションとしての産業にはなっていないのではないでしょうか。金子先生もおっしゃっていましたが「締切のない絵」と同じで、それは趣味であって仕事ではないのです。私は、着物を仕事にしていて、常におしゃれなものであってほしい。だからこそWaRLOCKを通して、着物を現代に進化させたファッションにしていきたいわけです。
借金を完済するまでの間、正直、生きた心地がしませんでした。それでも、ここまで生き残れたのは、周りの方々の支えがあったからです。「今できることを全力でやる」と自分に言い聞かせ、歩みを止めず進み続ける中で、特別な恩人たちが導いてくれました。昨年亡くなった国際文化学園の平野徹理事長のことは兄のように慕っていて、私のことも本当にかわいがっていただきました。89歳でなお現役で活躍し、WaRLOCKの海外進出も母のように応援してくださっている美容研究家の小林照子先生には、尊敬と感謝の念を抱いています。
――小田毅社長は5代目になるわけですが、老舗企業を後世に残す上で何が大切だと考えていますか。
私には幼い娘しかいないので、むりやりこの会社を継がそうという考えはないですね。もちろん、小田章という企業そのものは存続させたいので「誰に継承するのが最善か」と考えているのが正直なところです。
理想を言えば、業界外の人に継承してもらいたいと考えています。その人が着物を心から愛していて、急成長を求めるのではなく、形を変えながらでも心を伝えてくれるような方であればうれしい。私のような業界内の人間では、あれもこれも投資するのが難しいため、やはり資本力のある業界外の人の力が必要だと感じています。30年以上にわたるバブル期の負債を完済し、そのための決意がようやく固まったところです。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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