鉄道事業の分社化は小林一三イズムの終焉か 南海電鉄の新たな一手
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年11月9日 8時10分
分社化の利点には「節税」「リスク分散」「資金調達」「意思決定の迅速化」などがある。会社組織が大きくなると、現場が求める事項に対してハンコを押す責任の階層が増える。そのなかには専門外の人がいて、事情も分からず反対したり、決裁を後回しにしたりする。こうした「規模の不経済」を解消して、経営をコンパクトにすれば経営判断が速くなる。資金調達についても目的が明確化するため実行しやすい。
欠点は、管理部門の維持費が増えること。社屋を外に出せば費用が増えるし、本社に頼っていた管理部門も新たに設ける必要がある。人事制度が変わって、本社より待遇が悪くなる恐れもある。ただし業績が明確になるため、好業績であれば待遇が改善される。南海電鉄の分社化は、社員が全て本社からの出向になるとのことだから、待遇に差が出ることはなさそうだ。
●鉄道は発展ではなく、安定維持の時代になった
鉄道事業を分社化する理由は、主に「お財布を分ける」だ。「鉄道事業」と「その他の事業」を別にしたい。なぜなら一緒にした場合、資金を調達する時に用途が不明確になりやすいからだ。新事業を発足させる名目で資金を調達しようとしても、他の事業が不振であれば「補てんに使われるのではないか」と疑われる。では素直に赤字補てんのため借金したいとなれば、「他の黒字部門から融通してもらいなさい」となる。
東急や南海よりも前に鉄道事業を子会社化した事例がある。長野県の上田交通は、2005年に鉄道事業を分社化して「上田電鉄株式会社」とした。島根県の一畑電気鉄道は、2006年に鉄道事業を分社化して「一畑電車株式会社」を設立した。電鉄だったり電車だったりと、こちらもややこしい。
上田電鉄も一畑電車も、鉄道路線は赤字だ。その鉄道路線を維持するために、自治体の支援を受けたい。自治体としては鉄道に対する支援だと明確にしたい。だから分社化して経営を分離した。一畑電気鉄道はすでにバスとタクシーを分社化しており、鉄道の分社化によって持株会社となった。
子会社となった鉄道会社といえば、西武鉄道、阪急電鉄、阪神電鉄がある。西武鉄道はもともと不動産事業のコクドを頂点とした西武グループの会社のひとつだった。しかし、コクド配下の不祥事を受けて経営再建するため、2006年に持株会社の「西武ホールディングス」を設立し、西武鉄道を含む西武グループ全社が子会社になった。
阪急電鉄は1995年の阪神・淡路大震災を契機に、阪急グループ全体の経営再建のために「阪急ホールディングス」という持株会社を設立し、阪急電鉄ほかグループ会社を子会社化した。さらにファンドによる阪神電鉄株の大量保有をきっかけとして、2006年に阪神電鉄を子会社化。これにより阪急ホールディングスは「阪急阪神ホールディングス」となった。
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