1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

なぜ、最低賃金ニュースは“経営者の悲鳴”ばかり? 労働者の声が消えるオトナの事情

ITmedia ビジネスオンライン / 2025年1月8日 6時10分

●「消費税ゼロ」も救済にはならない

 ちなみに、今でも一定の人たちが主張する「消費税ゼロ」も、低賃金労働者の救済にはならない。年収2000万円の人はもともと消費をたくさんするので、恩恵もでかい。しかし、時給794円で働いている60代女性は、消費も切り詰めているので恩恵もスズメの涙だ。晩ご飯のおかずが一品増え、500円貯金が始められるくらいなので、「低賃金・低消費」という構造的な問題は何も変わらない。

 だからこそ、全ての低賃金労働者を引き上げる「ボトムアップ政策」が必要なのだ。

 最低賃金を896円、980円と引き上げていけば、労働者に時給794円しか払えない経営者は事業の継続を断念するしかない。今、雇っている人はうまく丸め込んで働かせることができても、周囲の労働条件が良くなっているので、新しい人材確保が難しいからだ。

 そうすると、時給794円で働いている労働者は、失業してしまう。ここだけ切り取ると確かに「不幸」なので、ここに注目する人たちは「最低賃金を上げるのも考えものだ」となる。

 しかし、これはちょっと見方を変えれば、「低賃金労働からようやく解放された」ということでもある。今の日本は、外国人労働者や高齢者に頼らなくてはいけないほどの人手不足なので、選り好みさえしなければ、いくらでも仕事はあるのだ。そして、ここが大事なポイントだが、そのほとんどが前の職場でもらっていた時給794円よりも高い賃金なのだ。

 つまり、最低賃金の引き上げというのは、低賃金労働者にとって一時期的な失業を引き起こすこともあるが、基本的には所得増につながるものだ。日本を30年以上苦しめてきた「低賃金・低消費」から抜け出すには、このような「賃金の底上げ」を47都道府県で進めていくべきなのだ。

●ベトナムやタイに追い抜かれる日も近いか

 「最低賃金を引き上げるだけでは、経済は良くならない」と文句を言っている人もいるが、諸外国と同様に日本も最低賃金を引き上げているのならまだしも、日本の場合はそもそも「最低賃金引き上げ=邪道」みたいな強迫観念があるので、十分にやってきたとは言い難い。

 2018年に最低賃金を大きく引き上げた韓国を見て、多くの日本人は「大失敗だ」とさげすんだ。もちろん、かの国の経済にはさまざまな問題があるが、日本よりも平均年収が高く、最近では1人当たりGDPまで抜かれてしまった。

 2024年7月、ベトナム政府は最低賃金を平均6%引き上げている。

 タイも2025年1月1日、1日の最低賃金を330~370バーツ(日本円で約1508~1690円)から400バーツ(同約1828円)に引き上げた。2024年も観光業界などを対象に2回にわたって最低賃金を引き上げている。「零細企業の倒産」よりも「労働者(消費者)の生活」を重視するのが、世界の経済政策の常識なのだ。

 ベトナムやタイは経済成長著しく、いずれ日本は追い抜かされるといわれている。恐らくそのときがやってきても、日本のマスコミはまだ「最低賃金が84円上がって経営者が悲鳴!」とかやっているのではないか。

 そうなると、ベトナムやタイは現在のハワイのような位置付けになる。そう遠くない未来、「え? この正月休みベトナム行ったの? ランチに5000円もかかるようなところによく行けたね」なんて会話が当たり前になる時代が来るかもしれない。

(窪田順生)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください