テレビが面白くなくなった理由は“コンプラ強化“? 業界とタレントの炎上70年史
ITmedia NEWS / 2025年1月16日 16時27分
00年代にはテレビの影響で商品が爆売れしたが、10年代には反転し、放送内容に問題があるとネット上の呼びかけで不買運動が起こるようになった。タレントへの不祥事にも厳しい目が向けられ、テレビ局よりもスポンサーに圧力がかかるようになっていった。スポンサー企業は自社商品に対する回答には慣れているが、提供番組のタレントにはより厳格さをテレビ局や広告代理店に求めることになる。テレビに対して「何が効くのか」が国民に周知され、最適化された結果である。
19年には吉本興業所属の多数のタレントに対して反社会勢力との関係を指摘され、謹慎や退所が相次いだ。芸人と反社会勢力との関係は、11年の島田紳助引退によって社会的に問題視されてはいたが、この事件をきっかけに芸能事務所側の責任として、マネジメント体制や、芸人の行動監視がより強化される事となった。
同じく19年から施行された働き方改革関連法により、番組制作現場による長時間労働やハラスメントが、「AD哀史」として注視されるようになっていった。
●平等とハラスメントに揺れる20年代
20年代はまだ途中ではあるが、新型コロナウィルスの影響により、タレントの健康管理や行動規範にも注目が集まるようになった。またジェンダー差別をはじめとする各種ハラスメントが社会的にも大きくクローズアップされ、こうした差別や偏見を助長する表現が排除される傾向が強まった。
21年には、BPOが「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」を審議対象とすることを発表した。これをきっかけとして、芸人の身体的特徴や容姿をいじって笑いを取るという方法論が衰退し、多くの芸人は方向性を転換せざるを得なくなった。
ハラスメント問題で最大の事件は、23年に発覚したジャニー喜多川氏の性的虐待事件である。これは日本のメディアがすっぱ抜いたわけではなく、米国BBCのドキュメンタリー取材によって明らかになったことから、日本のメディア、特にテレビ局とタレント事務所間に自浄作用はないということが明らかになった。
この問題は国際社会でも大きな注目を集め、最終的には事務所の解体と所属タレントの離散という結果となっている。年末恒例のNHK紅白歌合戦でも、23年、24年と2年連続で旧ジャニーズ事務所所属タレントが排除されるなど、厳しい対応が続いている。
現在テレビに対する批判は、主に出演タレントに対するものが中心となっており、薬物使用、暴行、未成年との飲酒、不貞行為などが発覚すれば、即時の判断で放送中止や番組改変・再編集により処理される。テレビ局側も、次第にこうしたイレギュラー処理に慣れてきている。
ある意味ではテレビ局は、コンプライアンスを強化することでふりかかる火の粉を振り払うことに成功したとも言えるが、それと引き換えに各局の個性が失われ、番組への関心が下がり、視聴率低下を招くといった事態に陥っている。
BPOに関する最新のニュースでは、TBSのバラエティ番組にて、番組内容が広告と誤認するものではないかという疑いがあるとして、審議入りしたことが伝えられている。取材対象に対して過剰にサービスすることもまた、放送としては中立ではないという事である。
放送倫理とは、昔はやってはいけないラインを探すことであった。だが現在はやってもいいラインすらぼやけている。表現活動は制限があるほうが面白いものではあるのだが、やれる範囲が狭くなった中で当たり障りのないものを作ることは、面白い作業ではない。テレビ離れは、作り手側からも起こっている。
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