一軒家に核爆弾が落ちる、老夫婦の日常アニメ映画 「風が吹くとき」がいま公開される意義
ねとらぼ / 2024年8月3日 20時0分
一連のシーンがあまりにバカげていると思う方もいるだろうが、劇中でおじいさんがシェルター作りの参考にした、政府発行の冊子「PROTECT AND SURVIVE(守り抜く)」は実際にイギリス政府が1974年から展開していたキャンペーンで、1980年にはリーフレットとして配布していたものだ。
●知識も経験も役に立たない怖さ
また、老夫婦は2度の世界大戦をくぐり抜けているのだが、その知識と経験が役に立たないどころか、視野狭窄につながっている側面も描かれる。特におじいさんは過去の戦争での「畑の上を飛ぶ戦闘機」といった出来事を「懐かしい日々」とポジティブに振り返るばかりか、「あの頃は口ひげのスターリンなどがわかりやすくて良かったな、今は誰がいるのかさっぱりわからん」と、「今の戦争への無知」をはっきり露呈するのだから。
この他にも、おじいさんは一見すると知識をいろいろと披露する「博識」タイプのようで、実際は広島に落とされた原爆のことを表面的にしか知らず肝心な知識が欠落していたり、さらに「政府に従うのはわれわれの義務なんだ」と不確かな情報を妄信するなど、危うさでいっぱいなのだ。
おばあさんもおばあさんで、おじいさんの言動に文句を言ったりはするが、それよりも「家事優先」で危機感があまりにもない。
こうした事柄はどれも、現代でも人ごとではない。今まさに「外部」で起きている恐ろしい出来事の現実味を感じられず、なんとなくの知識で「まあ、大丈夫だろう」と思い日常を続けていくことは、「あり得る」からだ。本作で受け取る恐怖は、これまでの戦争の歴史に加え、今まさに世界で起こっている出来事を「知る」意義を再認識させてくれるものだ。
●真の恐怖は「その後」にある
そして、真の恐怖は「その後」にある。核爆弾が落とされ、すさまじい熱と風が吹き、全てががれきと化す中でも老夫婦は生き延びるのだが……2人は「放射性物質」についても楽観的で危機感がない。おばあさんは「放射能なんて見えないし感じない」と言い、おじいさんはとある「症状」が出ても「中年にはよくあること」と言ったりするのだ。
それでも、2人は日々を過ごし、ただ救助を待ち続ける。おじいさんは水道が止まったことにも「汚染された水から住人を守ろうという国からの心遣いだ」とポジティブでい続ける。一方でおばあさんはどんどん憔悴していく。最悪な状況に進んでいることを観客は客観的に認識できるが、劇中の2人はそうではない。なまじ「希望を持っている」ことが悲しく思える。
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