HPVワクチンの効果、子宮頸がん以外にも
Japan In-depth / 2016年5月29日 12時0分
上昌広(医療ガバナンス研究所 理事長)
「上昌広と福島県浜通り便り」
わが国で、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種が普及しない。
副作用が問題となり、2013年6月に厚労省は、HPVワクチンの接種勧奨の一時中止を勧告した。今年3月には被害を訴える女性たちが、国と製薬企業を相手に提訴する方針を表明した。わが国では「HPVワクチンは危険」というイメージが確立している。
ところが、これは、世界の趨勢と大きく異なる。HPVワクチンに子宮頸がんの予防効果があることは世界の常識だ。世界保健機関(WHO)は、日本の一連の対応を名指しで批判しているし、米国・欧州の当局も安全、かつ有効であるという声明を発表している。
4月11日には、米国のがん治療でもっとも権威がある、米国臨床腫瘍学会も「がん予防のためのHPVワクチン」という論文を発表し、従来の見解を支持した。HPVワクチンの安全性を懸念しているのは、いまや日本くらいだ。
HPVワクチンの安全性に対する懸念が、誤解に基づくものであることは、筆者を含め、多くの専門家が繰り返し指摘している。ご興味のある方は、拙文をお読み頂きたい。
実は、HPVワクチンの効果は、子宮頸がん以外にも期待されている。ところが、このことはわが国では、殆ど紹介されていない。本稿はHPVワクチンの臨床研究の「最先端」をご紹介したい。
【頭頸部癌】
子宮頸がんの次に有効性が期待されているのは、頭頸部がんである。これについては、すでに相当な知見が蓄積されている。
オピニオン誌『選択』の5月号に『ワクチン救える命を見殺しに 防げるガンで死ぬ日本人』というレポートが掲載された。この中で頭頸部がんのことが紹介されており、秀逸なレポートだ。ご興味のあるかたはお読み頂きたい。
話を戻そう。頭頸部癌は、口腔・咽頭・鼻腔・喉頭などに出来るがんの総称である。年間に約1万5000人が罹患し、およそ半分が亡くなる。
多くの病院では、耳鼻科医が担当する。治療は外科手術、放射線が中心だ。副作用を伴い、亡くならなくとも、後遺症を残す人が多い。音楽プロデューサーのつんく氏など、その典型だ。胃がんのように、早期に見つければ、後遺症なく治る癌ではない。出来れば、なりたくない。
ところが、近年、頭頸部癌の患者数が増えている。2010年の人口10万人当たりの発症数は12.2人で、この20年間に2.3倍に増加した。この傾向は、米国でも変わらない。過去30年間に6割増え、「新興の脅威」と見なされている。
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