「故郷が台湾である私は日本で異邦人だった」 失われた故郷「台湾」を求める日本人達 湾生シリーズ1 家倉多恵子さん
Japan In-depth / 2016年11月21日 18時0分
野嶋剛(ジャーナリスト)
「野嶋剛のアジアウォッチ」
「湾生(わんせい)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本の敗戦によって台湾から日本に引き揚げた台湾生まれ、台湾育ちの日本人のことである。日本の台湾統治は1895年の日清戦争の勝利による台湾割譲から半世紀にわたり、突然、日本の敗戦によって打ち切られた。当時、台湾にいた日本人は60万人。うち湾生は20万人いたとされる。だが、彼らの物語は、戦後の「植民地統治」全面否定論のなかで、日台双方で歴史の闇に埋もれたままだった。
その湾生たちが台湾という「故郷」に続々と戻りつつあることを取り上げた台湾ドキュメンタリー映画「湾生回家(わんせいかいか)」が今月12日、東京・岩波ホールで日本公開が始まった。今後、全国で上映が続いていく。
タイトルの「回家」とは中国語で「故郷に戻る」ことを意味する。「湾生回家」は、2015年に台湾で公開され、異例の大ヒットとなり、台湾に社会現象とも言える湾生ブームを巻き起こした。なぜ、戦後70年を経て、湾生の物語が、台湾で、そして日本で、これほど注目されるのだろうか。
このシリーズでは映画に出演する湾生の方々の証言を3回に渡って紹介し、湾生とはどういう存在だったのか、台湾への思い、戦後の日本での暮らし、そして、なぜ人生のラストステージに差し掛かかるなかで「回家」、台湾に戻っていく理由を語ってもらった。一回目は家倉多恵子さんだ。
プロフィール:家倉多恵子/1930年3月11日生まれの85歳。台北市生まれ。台北州立第一高等女学校(台北一高女)などに通い、花蓮高等女学校3年生で終戦を迎える。1946年に花蓮港から引き揚げて鹿児島に上陸し、家族の実家である福井県敦賀市に戻った。ここ10年、定期的に台湾でロングステイしている。
野嶋:お父さんは台湾総督府で働いていたそうですね。
家倉:父は敦賀の出身で、京都の同志社大学を卒業したとき、昭和の恐慌で就職が決まっていた銀行がつぶれたので、慌てて就職先を探したら総督府しかなかったそうです。母も敦賀の女学校。東京の女子美を出てから父とお見合いして台湾に来ました。
野嶋:家倉さんが台湾で暮らしたのは16年間になりますね。
家倉:はい、その当時、台北の東門というところで、日本でいえば新興住宅街に暮らしながら、のんびりと学校に通いました。いま日本人に人気の鼎泰豐というレストランがあるあたりです。近くで水牛も歩いていて、学校に行く途中に水牛に追いかけられたりしました。
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