インドネシア社会に激震「アホック現象」
Japan In-depth / 2017年5月18日 0時14分
「雰囲気と状況」とは、たとえば日本では「空気を読む」という表現で周囲への配慮と取り巻く環境の読み取りを意味し、それが分からないと「空気が読めない人」などといわれることがある。しかし、インドネシアでは「雰囲気と状況」を的確に見極め、読み取らないと裁判や社会的批判を受けるという「制裁」に発展する可能性が大きいのだ。
こうしたことから誰もが思っていること、たとえば「裁判官の公正な判決になんらかの影響を与えた人物がいるのではないか」「裁判官は金銭で買収されたのではないか」などという疑問を真っ向から問うことができない現実がある。
■赦されざるイスラム冒涜
さらに「判決に宗教は無関係」「イスラム教をアホック事案に絡めるのは間違い」といった言説は堂々とまかり通る一方で、「(インドネシアの圧倒的多数の)イスラム教徒が(少数派の)キリスト教の聖書を批判したら同じような指弾を受けて同じような裁判に、そして同じような判決になるか」と問われれば誰もが「否」と答えることだろう。
つまり今回の裁判は「キリスト教徒であるアホック氏がイスラム教を冒涜した」からこそ罪に問われ、有罪判決が下されたということであり、イスラム教が無関係というのは「言葉のまやかし」あるいはそれこそ「雰囲気と状況」への配慮でしかないのだ。
■アホック氏の大統領選出馬を阻む「禁固2年」
4月19日に投開票が行われたジャカルタ特別州知事選決選投票でアホック知事は現職知事として洪水対策、交通渋滞解消、住民との対話と現地視察などの数々の実績があり、圧倒的支持を得ながらも得票率42%と伸び悩み最終的には敗北した。
その原因として宗教冒涜罪の被告として裁判に出廷しながらの選挙戦となり「アホック即時辞任」「アホック即時逮捕」を求める白装束の急進イスラム教一派による大規模動員デモなどの有権者への心理的影響、さらにアホック陣営を支えた与党「闘争民主党(PDIP)」の「楽勝ムード」が先行した選挙戦術の甘さなどが指摘されている。
知事選敗北、検察の訴因変更などから「執行猶予付きの判決は確実」とさえ言われていたが、実際には「禁固2年」の実刑判決となった。実はこの「2年」に大きな意味がある。つまり2年後の2019年に予定される大統領選挙に「出馬の呼び声が高かった」アホック氏は実質上立候補することが難しくなるのだ。大統領選への立候補を阻む「禁固2年」、検察の求刑を上回る「禁固2年」。この判決に欣喜するのは誰なのかを考えると裁判の背景、そして「反アホック」の一連の動きの背景がみえてくる。
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