インドネシア社会に激震「アホック現象」
Japan In-depth / 2017年5月18日 0時14分
■旧体制派を糾合するプラボウォ氏
アホック氏は現在のジョコ大統領がジャカルタ州知事時代の副知事であり、ともにバックは与党PDIPである。このPDIPに挑み続けているのが前回大統領選にも出馬して敗れたプラボウォ・スビヤント氏。プラボウォ氏は野党「グリンドラ党」党首であるとともにスハルト元大統領の女婿でも一時あり、旧体制を支えたグループを糾合し、次回も大統領選に出馬する意欲をすでに明らかにしている。
このプラボウォ氏がアホック氏の知事選での対抗馬で次期知事への当選を果たしたアニス・バスウェダン前教育文化相の後ろ盾にいたのだ。
プラボウォ氏はアホック氏の知事選敗北を受けてイスラム急進派の「『イスラム擁護戦線(FPI)』は民主主義を守った」と発言、暗に反アホックのイスラム急進派の動きとプラボウォ氏の連携を示唆した。これは同時にFPIのデモに動員されたジャカルタ州以外からの参加者が日当や弁当代、交通費を受け取っていたとする指摘を図らずも裏付けるもので、アホック追い落としがプラボウォ氏とその旧勢力に繋がる取り巻きによって計画的、組織的に行われた疑いを完全に払拭することはできないのだ。
■問われたのはやはり「宗教」
今回のアホック前知事への厳しい判決にこうした権謀術数に長けた百戦錬磨の旧勢力に繋がる一派の影響力が全くなかったとは誰も思ってはいない。しかし、前述の「雰囲気と状況」がそれを許さないのがインドネシアの現状といえよう。
今回の一連のアホック氏を巡る問題の本質はインドネシアのイスラム教が抱える根本的な問題をえぐり出しているといえる。大多数のイスラム教徒が共有する宗教的寛容性を、一部の偏狭で独善的な急進派とそれを利用しようとした政治勢力が結託して脅威にさらしたのが問題の本質で「イスラム教徒対キリスト教徒・仏教徒などその他の宗教信者」という構図よりは「イスラム教徒の中でアホック支持者対急進反対派に分裂した構図」が鮮明だったことからやはりイスラム教という宗教のあり方も問われたのだ。
アホック氏への同情論、支援の輪の拡大は一部でアホック氏を「南アフリカのマンデラ氏」になぞえる動きともなっている。黒人差別主義と戦い投獄されながらも後に黒人差別撤廃を実現し大統領にまで上り詰めたマンデラ氏の生き方に「アホック氏の有罪判決、収監」を投影しているのだ。
事実、有罪判決がでるまではインドネシアで史上初の非イスラム教徒の大統領誕生という夢をアホック知事に重ね合わせていた国民は多かった。それが判決後にさらに支援の輪を広げて「アホック現象」のうねりになっているのが今のインドネシアといえる。
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