暴露本から見えないトランプ像
Japan In-depth / 2018年4月6日 12時46分
■ メディアとの対立は妥当
著者のウォルフはリベラル派だが、ロシアとトランプ陣営が共謀して選挙干渉したとされる「ロシア疑惑」に関し、もし事実でない場合は、民主的に選ばれた大統領に対する盲目的憎悪に駆られた打倒キャンペーンと言わざるを得ず、トランプが主流メディアに怒りを抱くのも当然と記している。
もっともトランプの発言にも誇張や飛躍が多い。トランプと主流メディアという「二つの信頼できない語り手がアメリカの公的生活を支配する新事態が現出した」というウォルフの評言は的を射ていよう。
メディアがこれまでにトランプに放った最強のフックは、大統領選挙直前にワシントン・ポストがスクープした「プッシーゲート」であったとウォルフは言う。「いきなりキスすればいい。スターなら女は何でもさせる。プッシーを掴んでも大丈夫だ」というトランプ発言を収めた秘密録音のすっぱ抜きだが、ウォルフは、これに比べればロシアゲートなど、「やけくその手しか残っていないゲート(only-desperate-thing-left-gate)」と呼ぶべきものだともいう。これまた適切な評言と言える。
■ 政権内対立からみる政策決定
スキャンダルより重視すべきは、もちろん政策である。ホワイトハウス内では、バノン元首席戦略官に代表される「過激孤立主義」的な保守派、イバンカ、クシュナー夫妻ら「ニューヨーク民主党」系の「リベラル的現状維持」派、プリーバス前首席補佐官ら共和党主流エリートの三者によるせめぎ合いが政権発足後続いてきたとウォルフはいう。
確かに、特に前二者間の対立は次第に熾烈の度を増し、最終的にバノンの解任につながったようだ。個人の出入りはあっても上記構図に基づく、政権与党内のせめぎ合いは今後も続いていこう。
以下、いくつかの対立事例を見てみよう。
▲写真 スティーブン・バノン元米大統領首席戦略官兼上級顧問 出典 flickr:photo by Michael Vadon
まず温暖化対策の新枠組「パリ協定」からの離脱。これは離脱を主張したバノン派が勝利した。イバンカらの反対はトランプに容れられなかった。なおウォルフは、バノンが「ほぼ単独で」この結果をもたらしたとするが、当を得ない。
トランプはパリ協定離脱声明において、共和党主流派に近いウォールストリート・ジャーナルの支持社説を引いている。すなわちトランプの立場は、保守派の多数意見を反映したものであった。
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