暴露本から見えないトランプ像
Japan In-depth / 2018年4月6日 12時46分
米保守派は、「人間活動に起因する温暖化」説に懐疑的である。気候変動の主要因を大気圏内の「温暖化ガス」量に求めるのは短絡的で、太陽活動や宇宙線の影響、海流の変化などを総合的に考慮しなければ科学的知見とは言えないとする。
また米国内の二酸化炭素排出量は、市場原理を通じたエネルギーの効率的使用によって減少しており(2000年比で約20%)、さらなるテクノロジー開発とその輸出で世界に貢献すればよく、国内規制を無理に強化して産業力を弱めるのは愚かというのが保守派の主張である。
政策決定の背後にあるこうした議論への言及がないのが、本書の弱点の一つと言える。
もう一つの対立事例はシリア爆撃の是非である。2007年4月6日、化学兵器を使用したアサド政権への懲罰として、アメリカはシリアの軍用空港に巡航ミサイル・トマホーク数十発を打ち込んだ。
この時の論争は、不介入を主張したバノンが敗者となった。バノンの「超合理的」な論点は、①化学兵器使用で特に戦況に変化がもたらされたわけではない、②子どもが犠牲になった戦闘は他にも多数あるのになぜこの場合だけ軍事的に対応するのか等々である。一方、マクマスター安保担当補佐官や軍部は限定爆撃を進言した。長女のイバンカ補佐官も苦悶する子どもたちの画像をトランプに見せ感情を揺さぶった。バノンの孤立は明らかであった。
■ 根拠の記述が不十分な点も
なお北朝鮮問題でも、バノンは「ソウルが火の海になることを防げない以上軍事オプションはあり得ない」と、大統領とは異なる立場を打ち出し、それが更迭の決定打となった。本書には、残念ながら北朝鮮問題をめぐる踏み込んだやりとりはない。
中国についても、「中国がすべてだ。他の何物も問題ではない」というバノン発言を複数回引き、一方イバンカ、クシュナーの不明朗な中国コネクションを引き対立を暗示しながら、それ以上の深掘りはしていない。メディア論が専門の著者にとって、得意分野でないということなのだろう。
■ ペンスとトランプの良好な関係
興味深いのは、著者が、ペンス副大統領の周りだけは「嵐の中の静けさ」地帯で、スタッフのチームワークもよく取れているとしている点である。
ピョンチャン五輪に合わせて訪日、訪韓したペンスは、北朝鮮の微笑工作を打ち砕くため「北は自国民を拷問し、飢えさせる残忍な政権」とのメッセージをあらゆる場で発信すると宣言し、その通り実行した。筋金入りの保守派であるペンスと安倍首相が信頼関係を築けたなら、心強い話である。
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