核テロへの備え 福島原発事故の教訓
Japan In-depth / 2018年4月16日 0時0分
ゲイル医師は福島第一原発事故でも来日している。ただ、このときは大量被曝した作業員、住民はいなかった。多くのメディアに登場したが、彼の専門的知識を活用することなく、帰国した印象がある。
では、福島第一原発事故の教訓とは何だろうか。それは住民対策だ。いつ、誰を、どのような方法で、どこに避難させるか、一歩間違えれば多くの被害者を出してしまう。
最近、興味深い研究成果が発表された。相馬中央病院の森田知宏医師を中心にした研究チームの発表で、米国の科学誌『プロスワン』に掲載された。
森田医師は2012年に東大医学部を卒業し、千葉県の亀田総合病院で初期研修後、福島県相馬市の相馬中央病院に就職した。私との出会いは2006年だ。私立灘高校から東京大学理科3類に入学し、私どもの研究室に出入りするようになった。前回、ご紹介した森田麻里子医師は東大医学部の同級生で、大学卒業と同時に結婚した。
▲写真 相馬中央病院 森田知宏医師 出典 相馬中央病院
話を戻そう。森田医師らの研究の目的は震災直後の南相馬市の住民の避難状況を調べることだった。当時の状況は誰も把握していない。彼らが用いたのは、坪倉正治医師が中心となって実施している内部被曝調査の問診票だ。この問診では、被曝を正確に評価するため、震災直後の避難状況を詳細に質問している。
東日本大震災当時の南相馬市の人口は7万919人で、原発から20キロ圏内の強制避難地域に1万2,201人、20-30キロ圏内の屋内退避指示地域に4万4,773人、30キロ圏外に1万955人が住んでいた。このうち、内部被曝検査に参加したのは、それぞれ3,415人(28%)、1万3,801人(31%)、2,933人(27%)だった。
この研究は、内部被曝検査を受けた人が対象で、被曝を心配している人に限定される。このため、避難のリスクを過剰評価する可能性がある。また、避難したきり、戻っていない住民は、この研究には含まれていない。過小評価している可能性もある。ただ、従来の研究が対象住民の1%程度のデータしか収集できていないことを考えれば、その意義は大きい。
結果は、驚くべき内容だった。特記すべきは、屋内退避指示地域の住民の87%、原発から30キロ圏外の地域の住民の87%が避難していたことだ。政府は「屋内にいれば問題ない」とアナウンスしたのに、住民は「危険である」と判断し、自主的に避難したことになる。
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