核テロへの備え 福島原発事故の教訓
Japan In-depth / 2018年4月16日 0時0分
住み慣れた自宅から取るものもとりあえず出てきた避難者は、一度、自宅を見たかった。また、避難先では苦労の連続だった。この結果を知った住民は帰還しはじめた。震災前に7万919人だった人口は約1万人まで減少したが、4月には約4万人まで回復した。
ところが、屋内退避指示が解除されたのは4月22日だった。前出の坪倉医師は「屋内退避指示は通常、数日間で解除するのが普通です」という。この間、この地域の社会インフラは機能不全のままだった。
病院も例外ではない。地域の中核病院である鹿島厚生病院(30キロ圏外)、南相馬市立総合病院(20-30キロ圏内)が入院診療を再開したのは、それぞれ5月2日、9日だった。それまで急病を発症しても、地元の病院に入院出来なかった。
知人の厚労官僚は「今回のようなケースで、県が個別の医療機関の営業を停止する法的権限はない」というが、当時、地元の病院経営者は「福島県から入院診療は差し控えるように指示された」と口を揃える。
政府が屋内退避指示を出し続けている状況で、もしも原発事故が再発した場合、入院患者を搬送する責任を回避したかったのだろうか。彼らの本音はわからないが、取り残された住民は見捨てられたことになる。
このことは、多くの住民の命を奪った可能性が高い。2017年10月に森田知宏医師らが英国の医学誌に発表した研究によれば、南相馬市と相馬市の住民死亡率(津波による溺死を除く)は震災後一ヶ月間に男性が2.64倍、女性が2.46倍も上昇していた。特に85才以上の高齢者の死亡リスクが高く、主たる死因は肺炎であった。これは原発事故直後、高齢者が孤立し、外部から充分な支援が入らず、適切な医療が受けられなかったことが影響している可能性が高い。
福島第一原発の教訓は、高齢化社会で原発事故が起こった場合、被曝による直接的な影響以外に、医療を含め、都市機能が麻痺することによる間接被害が重大ということだ。
原発事故が、都市にどのような影響を与えるか。福島の経験は、予想がつかないことを示している。我々に求められるのは、都市を有機的な複雑系とみなし、万が一原発事故が起こったときの社会への被害をダイナミックに分析することだ。おそらく、人工知能やビッグデータの専門家の協力が欠かせないだろう。では、我々、臨床医の仕事はなんだろうか。私は現場で診療し、一次情報を得ることだと思う。一次情報の蓄積がなければ、情報工学者の出番はない。
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