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女性アスリートの貧血問題

Japan In-depth / 2018年12月31日 18時2分

 


貧血の治療の基本は鉄剤の経口投与だ。鉄は経口で投与する限り、体内に過剰に取り込まれることはない。安全性が高い治療だ。ところが、鉄剤を服用すると40%程度の人が嘔気を生じ、時に嘔吐する。このため、鉄剤は「処方されても飲まない薬」として有名だ。


 


このような人には注射で投与するしかない。このように、鉄の補充経路は重症度だけで決まるわけではない。この点で、読売新聞の社説は医学的に間違っている。


 


貧血は、若年女性でありふれた疾患だ。虎の門病院の久住英二医師らの研究では、わが国の女性の17%が貧血だった。これは米国の6%、欧州の2-5%と比べ遙かに高い。



写真)久住英二医師


出典)ロハス・メディカル


 


これには幾つかの理由が考えられる。まず、日本は「痩せている方が美しい」と考え、ダイエットに励む若年女性が多いことが挙げられる。栄養摂取量は終戦直後よりも少なく、世界の先進国でもっとも低体重が多い。当然、鉄の摂取も少ない。日本は「貧血大国」なのだ。


 


アスリートが置かれた状況はもっと酷い可能性が高い。アスリートは、筋肉の細胞がミオグロビンという形で鉄を利用する。運動時には筋肉で消費された酸素を、ヘモグロビンからミオグロビンに受け渡す形で補充される。アスリートは、一般人より鉄の需要が大きい。


 


余談だが、ほ乳類の血が赤いのはヘモグロビンが赤いからだ。イカやタコの血は青い。それは、彼らが銅をもちいて酸素のやりとりをしているからだ。太古の海に鉄や銅は豊富にあった。我々の先祖は鉄、イカやタコの先祖は銅を用いて、酸素をやりとりした。我々とタコやイカの血の色が違うのは、その名残だ。


 


話を戻そう。アスリートが貧血になりやすいのは、他にも理由がある。それはアスリートは、トレーニング時に汗から鉄を消失し、消化管から微量の出血が起こるため、鉄を喪失しやすいからだ。さらに、陸上や剣道のような踏み込みが強い競技では、踵で赤血球が壊され、尿から排出されるので貧血になりやすい。激しい運動をしたあとに血尿が出たというのは、ほとんどこのパターンだ。かつて長距離を行軍した軍人に多く見られたため、行軍血色素尿症と呼ばれている。


 


さらに、女性アスリートのボディイメージの問題もある。若年女性アスリートの中には「痩せがスポーツのパフォーマンスを向上させる」と考える人が多いのは世界共通の傾向だ。2016年に米ノーステキサス大学の医師が発表した研究では、半数以上が体重を減らしたいと回答し、75%がダイエットしていた。このような状況を鑑みれば、おそらく日本の女性アスリートの多くが貧血だろう。


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