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女性アスリートの貧血問題

Japan In-depth / 2018年12月31日 18時2分

 


貧血は様々な不具合を生じる。例えば、妊娠・出産すると、未熟児を産むリスクが2割程度高まる。貧血は妊娠早期の胎児の成長を阻害するが、妊娠早期には悪阻(つわり)があり、鉄剤は補充しがたい。アスリートに限らず、妊娠世代の若年女性は平素から貧血予防が必要だ。


 


少なからぬ人が注射を要する以上、鉄剤の過剰注射の極端なケースを大袈裟に騒ぎ立て、使用のハードルを上げるべきではない。問題ケースに対して、個別に対応すればいい。


 


さらに、近年、世界の医学界で注目を集めているのは、貧血ではないが、体内の鉄が欠乏している人たちだ。


人体はヘモグロビンやミオグロビンの形で鉄を使うだけでなく、肝臓などに大量の貯蔵鉄を持っている。出産や大出血に備える意味があるのだろう。貯蔵鉄を評価するには血液中のフェリチンという物質を測定する。これは、一般のクリニックでも実施できるありふれた検査だ。現在、このような指標をマーカーに鉄を補充しようという医師もいる。


 


このような潜在的な鉄欠乏の人に対し、経口であれ、注射であれ、鉄を投与すると、疲労感が軽減し、身体パフォーマンスが改善したという報告は多数ある。現在、医学界の趨勢は、このような女性に対し、鉄を補充するようになっている。妊娠し、鉄の需要が高まる可能性があることも考えれば、合理的な判断だろう。


 


ところが、わが国の健康保険では、鉄剤の投与が認められているのは「鉄欠乏性貧血」だけだ。潜在的な鉄欠乏の患者に鉄剤を投与しようとすれば、医療行為は全額自費となる。鈴木長官のように、「鉄剤注射は医療行為。本当に治療が必要な場合を除き、安易に利用すべきでない」と一刀両断できる問題ではない。


 


アスリートに対する鉄補充についても多くの研究がなされている。中には有効という報告もある。例えば、2014年に豪キャンベラ大学の研究者らが発表した論文によれば、6週間の間に3回、陸上選手に鉄剤を注射したところ、3000メートル走ではタイムは改善しなかったが、400メートル走では0.8秒短縮し、これは統計的に有意だった。


 


この研究では、貯蔵鉄が不足していた人と、足りていた人を分けて解析はしていない。アスリートに対する鉄補充の効果が何に由来するか、現時点ではわからない。もし、貯蔵鉄が不足しているアスリートに、鉄を投与し、その結果、競技成績が向上したら、それはドーピングというのだろうか。


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