早野叩きで終わらせていいのか~被ばく論文の意義と実相~
Japan In-depth / 2019年2月2日 18時0分
この報告書を申請する時点で、早野教授たちが住民の同意の有無を、どの程度把握していたか筆者にはわからない。ただ、福島県立医大に研究倫理審査を申請する以前に、すでにICRPが呼び掛けたセミナーで調査結果を発表していることは注目に値する。
「第12回ICRPダイアログ」での発表は伊達市の業務、論文発表は早野教授の研究と詭弁を弄しても仕方ない。2017年9月、共同発表者の宮﨑医師は、この論文で医学博士を取得している。学術誌への発表も併せて、福島医大内での倫理審査を通過する必要があったのだろう。福島市内の元市役所職員は「倫理審査はアリバイ作りでした」という。
もし、早野教授が伊達市の非常勤職員を兼業し、その上で伊達市役所の名前でデータを発表すれば、それは問題とならないのだろうか。もし、福島医大の倫理委員会が住民の同意の取得が不十分と判断したら、この研究を認めないのだろうか。「第12回ICRPダイアログ」での発表はなかったことにするのだろうか。それは行政と大学の辻褄合わせにすぎず、住民にとって何のメリットもない。
今回の事件の問題は、住民からの同意取得という点において、伊達市が首尾一貫していなかったことだ。理想的には、全ての住民に同意をとるのがいい。ただ、それは現状を知らない人の戯言だ。
当時の状況を知る坪倉医師は「当時は大混乱状態で、将来がどうなるかなどわかりませんでした。2011年に検査を始めて、2016年頃までデータをとり続けて、そして発表するという同意を2011年の段階でとることは不可能」という。伊達市役所の職員が置かれた当時の状況を考えれば、やむを得ないのではなかろうか。
実は、この点については、政府も対応策を用意している。文科省・経産省・厚労省が2017年5月に発表した「個人情報保護法等の改正に伴う研究倫理指針の改正について」(※)という資料が参考になる。その30ページ以降をご覧頂きたい。
この資料によれば、伊達市が早野教授にデータを提供することは「既存資料・情報の他機関への提供」にあたる。三省が提示する基準に従えば、伊達市が実施した調査は、東日本大震災後の混乱状況なので、「原則IC(注 Informed consent、同意取得のこと)」の「IC困難」に相当するとみなしていいだろう。この場合、伊達市から早野教授たちに提供されたデータが「連結可能匿名化(条件を満たす特定の人以外は個人が特定できないように匿名化すること)」されていれば、「IC等の手続不要」である。
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