早野叩きで終わらせていいのか~被ばく論文の意義と実相~
Japan In-depth / 2019年2月2日 18時0分
「連結不可能」化とは、データ表に振られたIDなどを介して、住民の他の情報と結合できないことをいう。「匿名化」と併せて伊達市がファイルを処理すればいい。
研究者に提供することを明確に拒否した97名のデータは利用できないが、全員の同意がとれていなくても、研究者に提供する方法は残されている。
実は相馬市・南相馬市では、このような問題は生じなかった。それは相馬市、南相馬市が東大医科研に協力を依頼したからだ。東大医科研で中心となってサポートしてくれたのは武藤香織教授だった。医療倫理の専門家で、「最優先するのは住民の皆さんの健康、研究の辻褄合わせに住民や市役所の方に余計な手間をおわせてはいけない」と強調された。
相馬市や南相馬市の場合、武藤香織教授を通じて様々な情報が関係者で共有された。その中の一つがオプトアウトだった。オプトアウトとは、個人情報の第三者への提供に関し、本人の求めに応じていつでも停止する権利を確保することである。その際、あらかじめ第三者へ提供すること、提供する個人データの中身、提供する方法、本人が求めれば提供を断ることができることを、本人に通知あるいは容易に知り得る状態にしておくことが求められる。
実際は、健診などの受診者に説明文を渡したり、病院などに張り出す。個別に同意がとれない場合には、この方法で対応することが求められる。
相馬市や南相馬市は、このような状況を知った上で、原則として住民からの同意をとる方針を取った。実務上の理由でとれない場合にはオプトアウトの形式を採用した。伊達市のケースが不幸だったのは、伊達市の職員に、このノウハウが伝わっていなかったことだ。
▲写真 福島県・伊達市役所 出典:Townphoto(Wikiedia)
このことで早野教授を責めるのはお門違いだ。同意をとるべき主体は伊達市だし、物理学の専門家である早野教授が医学研究のお作法を熟知していなくても仕方ない。そもそも、彼は二つの論文の責任者である“corresponding author”でもない。
宮崎医師も同じだ。私と同じ臨床医だ。当時、最前線で住民と接していた。彼が優先すべきは、住民のケアである。
もし、責任を問うとすれば、それは伊達市役所だろう。ただ、当時、彼らは膨大な作業を背負い込んでおり、個別に同意をとれなかったとしても、決して責められるべきではないだろう。
現在、必要なのは犯人探しではない。住民の視点に立った議論だ。マスコミの批判を恐れた伊達市は再解析のためのデータの提供を控えている。このままでは、二つの論文は撤回され、後世に情報は伝わらない。これでいいのだろうか。このデータをどう扱うか、今こそ市民に問いかけてはどうだろう。
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