福島に新しい医療の風、吹く
Japan In-depth / 2019年3月8日 7時0分
▲写真:相馬中央病院 出典:相馬中央病院 facebook
ただ、相双地区の医師不足は悪化の一途を辿っているという訳ではない。興味深いことに、人口10万人当たりの医師数は、震災前(2010年)の120人から2016年の145人に25%も増えている。県北地域の19%増よりも高く、福島県の二次医療圏で最高だ。
勿論、原発周囲の住民が避難し、人口が減少した影響もあるだろう。医師の実数は236人から160人に減っている。ただ、この地域の医師密度が増加したという点は注目に値する。
これは坪倉医師をはじめ、今回受賞した若手医師の存在が大きい。現在、彼らが勤務する相馬中央病院と南相馬市立総合病院には合計13人の40歳以下の常勤医が勤務している。震災前の5人から大幅に増加した。興味深いのは、このうち7人が地元の福島医大の医局員でないことだ。震災前、このような医師は名古屋大学脳外科から来ていた1人だけだった。
東日本大震災以降、彼らは自ら進んで浜通りにやってきた。それは、この地域で働くことがキャリアアップに繋がるからだ。今春、南相馬市立総合病院は3人の初期研修医を受け入れるが、このうち2人は志望動機を「論文が書けるようになるから」と言ったという。
▲写真 南相馬市立総合病院 出典:南相馬市立総合病院 facebook
昔から医師教育の両輪は診療と研究だった。近年、「やり方」が変わりつつある。かつて医学研究は大学にいなければ出来なかった。大学には大勢の患者だけでなく、文献、実験器具、さらに研究をサポートするスタッフがいた。ところが、状況はかわった。高齢化が進み、大学病院で高度医療を受けたい患者は減り、自宅での終末期医療や介護の需要が高まった。
医学研究の中心は基礎医学から臨床研究、さらに公衆衛生研究や情報工学などと共同した学際的な研究にシフトした。このような研究では高価な実験器具を揃える必要はなく、SNSなどIT技術を駆使すれば、どこにいても論文は書けるようになった。
近年は地球温暖化が進み、世界中で豪雨や干ばつが生じている。災害医療は世界のトピックとなった。中国をはじめとした新興国で原発の建設が進み、原発事故の情報は貴重だ。このように考えると、東日本大震災後の浜通りには世界の医療が抱える問題が凝縮されている。坪倉医師たちは、この地で診療を続け、その結果をまとめていった。
2011年から2018年までの間に、彼らは合計115報の英文論文を発表している。うち95報は福島関係だ。図1に示すように2017年を除き、毎年発表数は増えている。
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