福島に新しい医療の風、吹く
Japan In-depth / 2019年3月8日 7時0分
▲図1:坪倉グループの英文医学論文数の推移
筆頭著者として発表したのは、坪倉医師19報、尾崎医師8報、森田医師7報だ。これ以外には、彼らの「仲間」である野村周平氏10報、西川佳孝氏9報、澤野豊明氏8報、村上道夫氏7報、レポード・クレア氏4報だ。8人で全体の76%を占める。
特記すべきは、この8人全員が40歳以下の若手だ。坪倉・尾崎・森田・西川・澤野氏は臨床医で、残る3人は公衆衛生学を専門とする研究者だ。臨床医は全員が浜通りの病院で診療を続けている。研究者も福島県で活動している。村上氏は震災後、勤務していた東京大学から福島医大に移籍した。
クレア氏はエジンバラ大学の修士課程に在籍中に南相馬市立総合病院に約1年間勤務して、研究に従事した。彼女の修士課程の論文は東日本大震災が浜通りの住民の健康に与えた影響だった。
野村氏は震災直後に東京大学医学系研究科修士課程に入学した。指導教員は渋谷健司教授(国際保健政策学)。渋谷教授は筆者とともに震災直後から被災地で活動を続けていた。野村氏は渋谷教授とともに被災地で活動し、修士課程の学位論文を書いた。その後、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士課程に進んだが、そこでも原発事故の健康影響について研究を進め、博士号を取得した。
彼らは、論文を書くために被災地を「利用」した訳ではない。全員が腰を据えて福島で活動し、その活動を世界に発表したのだ。
例えば、2012年8月に坪倉医師がアメリカ医師会誌『JAMA』電子版に発表した内部被曝に関する論文だ。
▲写真 乳幼児用の内部被曝検査装置(南相馬市立総合病院)出典:南相馬市立総合病院
相双地区で、まっさきに内部被曝検査を始めたのは南相馬市立総合病院だった。この論文では2011年9月~2012年3月までに同院で内部被曝検査を受けた住民9,498人の検査結果をまとめた。小児の16.4%、成人の37.8%で内部被曝が確認されたが、被曝量の中央値は小児で590ベクレル(範囲210-2,953)、成人で744ベクレル(210-12,771)だった。預託実効線量(放射線被曝をした場合の生涯での被曝量の推計)が1ミリシーベルトを超えたのは1人だけで、多くは問題となるレベルでなかった。
これは福島第一原発事故による内部被曝の実態をはじめて世界に報告したものだ。『JAMA』は世界でもっとも権威がある医学誌の1つである。この論文が発表されると、世界中のメディアが紹介した。「福島原発事故の被曝は問題とならないレベル」と報じられ、福島の風評被害対策に貢献した。
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