福島に新しい医療の風、吹く
Japan In-depth / 2019年3月8日 7時0分
高橋氏以外にも、南相馬市には気骨がある医師が大勢いた。既に、他の媒体でも広く報じられているため、本稿では詳述しないが、南相馬市立総合病院の金澤幸夫院長(当時)、及川友好副院長(現院長)がいなければ、この地域の医療は崩壊していた(参考:『FACTA』上昌広「南相馬 名もなき『赤髭』物語」)。
同院は福島第一原発から23キロに位置する基幹病院だ。原発事故後、この病院には医薬品はもちろん、食糧も入ってこなくなった。避難を余儀なくされる医師・看護師も大勢いた。残った医師は4名だった。金澤院長のリーダーシップのもと、彼らは獅子奮迅の活躍をする。5人目としてやってきたのが坪倉医師だった。短期的なボランティアではなく、まずは非常勤医師として定期的に勤務することになった。それから8年にわたる長いお付き合いの始まりである。
南相馬市の学習塾経営者である番場さち子先生にもお世話になった。「ベテランママの会」というお母さんたちの集まりを組織し、地元住民を対象とした「正しい放射能のお話し会」を繰り返した。講師は坪倉医師だ。この会を通じて、病院では知りあうことができない住民の声に耳を傾ける機会を得た。また、彼が実際に測定した内部被曝検査の結果を住民に直接伝える貴重な機会となった。
▲写真 「正しい放射能のお話し会」での坪倉正治医師(2015年5月20日)出典:一般社団法人 ベテランママの会 facebook
相馬中央病院を支える事務方の佐藤美希さんもかけがえのない存在だ。病院には多くの専門家や事務職が勤務している。多くは旧知の地元の人だ。余所者である坪倉医師や森田医師が働きやすいよう細心の注意を払ってくれた(参考:『HUFFPOST』上昌広「事務方に学べ 若い医師にとっての『先生』は、院内のいたるところにいる」)。
地元紙である福島民友の五阿弥宏安社長の存在も大きかった。2015年1月より坪倉医師に連載のチャンスを与えてくれた。毎週日曜日の「坪倉先生の放射線教室」だ。この連載は現在も続いているが、これを通じて坪倉医師たちの研究が福島県民にとどくようになった。
最後は竹之下誠一・福島医大理事長だ。昨年4月、彼の推薦で坪倉医師は福島医大公衆衛生学教室の特任教授に就任した。現場の診療・活動の傍ら、大学院生も指導するようになった。福島医大は社会人大学院があり、病院で働きながら学びたい医師・看護師が坪倉医師の元に集っている。今年4月には大学院生は9名となる。
大学院生の研究内容は福島関連だけでなく、人工知能を用いた病理診断、在宅医療など多岐にわたる。また、エジンバラ大学博士課程に進学したクレア氏など海外との交流も進めている。ネパール、フィリピン、イギリス、フランス、ロシアなどとも共同研究が進行中だ。坪倉チームは福島原発事故問題に留まらず、多分野かつ国内外に活動の幅を拡げている。
変革は常に辺境から起こる。東日本大震災後に集った若手医師を中心に、福島から新しい医療が生まれようとしている。
トップ写真:相馬中央病院の医局にて左から坪倉正治医師、尾崎章彦医師、森田知宏医師(写真提供:上昌広)
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