コロナ第3波とPCR論争
Japan In-depth / 2020年11月28日 19時0分
この研究は、PCR検査数を抑制したい厚労省にとって都合がよかった。厚労省は、この理論に基づいた形で、コロナ対策を立て、世界で例をみないレベルでPCR検査を抑制してきた(図1)。そして、多くの専門家が、この姿勢を支持してきた。コロナ感染症対策分科会の委員を務める押谷仁・東北大学大学院教授は、3月22日に放映されたNHKスペシャル『”パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか~』に出演し、「全ての感染者を見つけなければいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」、「PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態で踏みとどまっている」と述べている。
▲図1
ただ、その後の研究で、多くの無症状感染者がいることが判明し、状況は一変した。「CMMID COVID-19ワーキンググループ」は、11月10日に「コロナ感染を検出するための様々な頻度での無症候感染者へのPCR検査の有効性の推定」という論文を発表し、無症状の人へのPCR検査が有効と意見を変えている。
彼らは、PCR検査の陽性率は、まだ症状が発症しないことが多い感染の4日後に77%でピークとなり、感染10日までに50%に低下するとしている。彼らは感染後1-3日の間がもっとも感染を検出しやすく、積極的に検査を活用すべきとしている。
この論文は英国では大いに話題になったようで、筆者は渋谷健司・英キングス・カレッジ・ロンドン教授から教えて貰った。厚労省が、この研究を知らないのであれば、専門家として能力不足だし、もし、知っていて答弁に盛り込まなかったのであれば悪質だ。
ただ、いずれの論文もモデル研究だ。前提の置き方で結果は変わる。結果の解釈は慎重であるべきだ。
実は最近になって無症状の人へのPCRについて、決定的な「実証」研究が報告された。それは、11月11日、医学誌の最高峰である米『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』オンライン版に掲載された米海軍医学研究センターの臨床研究だ。
この研究の対象は、1,848人の海兵隊員の新兵だ。彼らは、サウスカロライナ州のシタデル軍事大学に移動し、訓練を開始するにあたり、14日間の隔離下におかれた。その際、到着後2日以内に1回、7日目、14日目に1回ずつ合計3回の検査を受けた。この結果、51人(3.4%)が検査陽性となった。
意外だったのは、51人全てが定期検査で感染が確認され、46人は無症状だったことだ。残る5人も症状は軽微で、予め定められた検査を必要とするレベルには達していなかった。発熱や倦怠感などの症状からコロナ感染を疑われたケースは一例もなかった。
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