続:身捨つるほどの祖国はありや
Japan In-depth / 2021年1月15日 22時51分
なぜそんな奇妙な委任が存在したのか。
議長である社長に大株主の委任状を出すわけにもいかず、といって会社から見ても大株主から見ても安心できる立場の人間でなければいけないからである。個人である。
いうまでもない。背景にあったのは、持ち合いである。会社のオーナーは社長なのか、という問いである。
話は以上に留まらない。
私は『天皇論』(富岡幸一 文藝春秋社2020年刊)を読んでもいた。副題に「江藤淳と三島由紀夫」とある。
そのなかでの江藤淳の発言が引用されていて、小林秀雄の『様々なる意匠』について、「題によく象徴されているように、仮装行列じゃあるまいし、いろんな恰好をしてみたって駄目だよ、という批評だった」とある。(131頁)さらに富岡氏は、「最近のそれでいえば、グローバリズムなどはその最たるものだろう。」と付け加えている。
コーポレートガバナンスは、グローバリズムにその大きな脚を置いている。それがすべての脚なのか、その脚だけではなく、他に日本という脚もあるのかどうか。
私は、法の支配は基本において世界の普遍的な価値であると信じている。それにもかかわらず、会社の経営者を選任するために不可欠の法的手続きである株主総会での議決権の行使において、壮大なバイパスづくりが長年にわたって行われていたのだ。社長がオーナーの如くふるまい、それが代々継承される。総会屋はそのあだ花であったということである。バブルが崩壊して、銀行が破綻し、このバイパスは修復しようもなく崩れ去った。
おそらく、書いた人間よりも、こうした事情が分かっていた方は何人もいたに違いないと私は感じた。携わっていたのは法律家のアドバイスを得ながらことを進めていた総会担当の面々であり、社長以下の会社の権力機構はそれを便利なつっかえ棒として屹立していたのである。
私は、『株主総会』のあとがきにこんなことを書いている。
弁護士の書く訴状や準備書面も、作家の書く小説も、散文という点では同じ文章にすぎないと考えていた。しかし、弁護士の散文は秘密が前提である。私は不特定の人間に話しかけたくなったのだろう、と。つまり、弁護士として大量の法律文書を書いてきた蓄積は、小説家修行でもあった、という趣旨である。
法律が創りだした法人の代表たる株式会社が、日本では壮大な虚構の上に載っていたこと、株主は実は株主権を行使せず、持ち合いによってそれぞれの会社の独立性を尊重し合っている体制だったことは、日本全体の黙約に通じる。
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