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官僚に数字合わせ強いる46%目標の愚

Japan In-depth / 2021年8月4日 11時0分

しかしこの見通しは3つの意味で非現実的である。





第1に日本の再エネコストの高さは自然条件、土地コスト、人件費等による構造的なものであり、政府が想定するような国際価格への収斂が起きるとは想定しにくい。更に変動再エネの拡大による統合コストが考慮されておらず、実際の再エネ関連コストは買取費用を上回ることになる。





第2に化石燃料価格が今後低下するという見通しも大いに疑問である。世銀やEIA(米国エネルギー情報局)は化石燃料価格の上昇を見込んでいるし、今後、アジアで石炭から天然ガスへのシフトが起きればLNGの調達コストがあがる可能性は十分ある。





第3に比較のベースがおかしい。「現行ミックスの9.2~9.5兆」とあるが、これは化石燃料価格が高騰し、電力コストが9.7兆円に達していたものを、原発再稼働、再エネ導入によって燃料購入費を引き下げ、再エネ買取費用の増大を考慮しても全体として9.2~9.5兆に抑えようというものであった。しかし現在は2015年見通し当時とは状況が異なっている。再エネ買取費用の拡大はあるも、化石燃料価格の大幅低下により電力コストは2018年度時点では8.5兆円になっている。コロナによる化石燃料価格の低下を考えれば足元の電力コストは更に低下しているはずである。上で述べたように8.6兆~8.8兆という電力コスト見通しは低すぎると思われるが、それを抜きにしても電力コストは現在よりも増大することは確実だ。これは主要国中最も高い産業用電力料金を更に引き上げることになり、日本の製造業に深刻な影響を与えるだろう。





経産省事務方もそのようなことはわかっているはずである。素案を注意深く読めば、自分たちの計算に留保をつけるような表現が多々見られる。それでも官僚としては総理肝いり46%目標が大幅なコスト増を招き、日本の製造業に悪影響を与えるとは書けないのだ。





筆者は素案を読んで太平洋戦争直前の企画院の石油需給試算を思い出した。昭和16(1941)年、日本が対米戦争を前に、米国が対日石油禁輸をするなかで、石油資源を確保しつつ、対米戦争を遂行できるのかとのシミュレーションを企画院が行った。結果は、「南方石油資源を確保し、日本に石油を持ってくれば長期持久戦が可能」というバラ色のものだった。現実には、輸送船が次々に沈められ、石油備蓄は底を尽き、最後は片道分の燃料を積んだ戦艦大和の特攻に至る。戦後、このシミュレーションの数字をつくった企画院の担当官は「皆が納得し合うために数字を並べたようなものだった。とても無理という数字をつくる雰囲気ではなかった」と述懐している。46%目標を先に与えられ、数字合わせに四苦八苦する経産省事務方と、米国から石油禁輸を受けても戦争できるというシナリオを作らされた企画院事務方の姿が重なって見える。





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