「日本人にとって生き死にとは」続:身捨つるほどの祖国はありや 8
Japan In-depth / 2021年8月13日 0時9分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・岸本英世氏:死の恐怖は、すべてが「無」になることへの恐怖。
・佐伯啓思氏:「日常の一瞬、一瞬の行いにこそ『別れの準備』がある」
・人はみな死ぬ。死までの過程こそが問題。
「人は死ねばゴミになる。」検事総長だった伊藤栄樹氏の言葉である。
しかし、身近であればもちろんのこと、見知らぬ異国の他人であっても人の遺骸をゴミと感じる人は少ないだろう。ねんごろに葬らずはいられないのが人の情というものであろう。
佐伯啓思氏の『死にかた論』(新潮選書)という新著を読んだ。
佐伯氏の話は安楽死から始まる。氏自身は「医師が一定の条件のもとに積極的に死を与える積極的安楽死まで含めて、可能な限り容認する方向で議論すべきだと思っている。」とその考えを述べる。(26頁)
私はつい最近、『いのちの停車場』という映画を観る機会があった。南杏子さんの「いのちの停車場」(幻冬舎文庫)を成島出氏が監督した東映作品である。
映画は、吉永小百合主演の医師が、父親を安楽死させようるとことを決心するところで終わる。しかし、観ているものはだれも、きっと安楽死が実行されたに違いないと思わずにはいられないある具体性が示されたうえでのエンディングだった。
父親は、病による痛みに耐えられず、自らの力で死のうとするのだが失敗し、自分自らの力ではもはやは死ぬことすらできない状態になってしまったいたのである。実の娘である医師に、何度も殺してくれと哀願するした。娘はそのたびに拒む。
まさか父親に安楽死をほどこすなどことになろうなどとはおもいもかけず、主人公は事情があって、大都市の病院から実家のある小さな町の診療所医院に勤めを替えた。主人公はそこで、他人の死をいくつも看取る。その最後になったのが、父親の死だったのである。
私は弁護士だから、ああ、この娘さんは警察に逮捕されるのだろうな、刑事裁判では執行猶予にはならないのだろうかな、と思いながら、涙とともに観ていた。医師とはいっても実の娘ではまずいなあ、それにこの安楽死には医師が一人しか関与していないしなあ、といろいろに思いをめぐらせながらも、この親子の間で起きたことには刑事罰がふさわしいのだろうかとなんどもなんども反芻していた。
前提となる事実は、映画だから確定されている。だが、現実の安楽死については、事実がどうだったのかを確定するところから始めなくてはならない。本当に安楽死だったのか、から始める。そのためには刑事裁判の厳密な手続きが必要だと考えるしかあるまいとも思っていた。
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