「ランボー、鷗外、そして日本の未来」続:身捨つるほどの祖国はありや10
Japan In-depth / 2021年10月12日 19時0分
牛島信(弁護士・小説家・元検事)
【まとめ】
・早熟の天才でありながら20歳で詩を棄てたランボーに憧れていた。
・鴎外は俗物の頂点として、誰の心にもある確かな記憶を描いた。
・人は生まれて死ぬ。失われた30年を生きる日本の未来はどうなのか。
少年時代、アルチュール・ランボーに憧れていた。
1854年に生まれ1891年に死んだフランス象徴派の詩人である。
そのランボーについての本が出たので私はさっそく買い求め、何冊かの本と並行しながらではあったが、すぐに読み切ってしまった。『ランボーはなぜ詩を棄てたのか』(奥本大三郎 集英社インターナショナル、2021年)である。
私はランボーに17歳のときに出逢った。一日一冊主義を思い立ち、その実行のためには薄い本に頼って、ハカを行かせることが必然であり、その結果、当時の岩波文庫で星一つだった『地獄の季節』を手にしたのだ。星の数というのは、値段の代わりに星一つがいくらという金額の表示の仕方を指す。
その本は、今も私の本棚にある。
取り出してみれば、なんと広島の金生堂という名の書店のレシートが張り付けられたままだ。昭和41年、1966年の10月1日に買ったらしい。50円である。もちろん、小林秀雄の訳である。
その日から、私は見返しの位置に張りつけられていた写真、「17歳のランボオ(1871)」と説明書きのある少年時代の彼の写真に強く引きつけられることになった。
奥本氏のいう、「どこか遠くを見るような悲し気な目をした、素晴らしい一七歳の肖像」(161頁)である。
私には、同じ遠くを見るような目ではあっても、永遠を望み見ている者の目のような気がした。
▲画像 ランボーの肖像画 出典:Photo by Stefano Bianchetti/Corbis via Getty Images
「また見附かつた、
何が、永遠が、
海と溶け合う太陽が。」(『地獄の季節』39頁)
の一節を思い出す。
奥本氏は自ら翻訳し、それはランボーをより理解させる。しかし、私は、若い日に小林秀雄訳でランボーに出逢ってしまったのだ。地獄の季節を地獄の一季節といわれても、それはそうなのだろうが、いまさら付いていけないという気もする。
小林秀雄については、そのころ、加藤周一の『羊の歌』で、こう読んだ。
「小林(秀雄)もよくできたが・・・これは渡辺とちがって、教室にちっとも出て来ない。家で本ばかり読んでいる。ぼくの家の本を持って行って、煙草の灰で汚して返してくるんだ。実によくべんきょうをしたな。試験をすると、講義に出ていないから、できませんね。それで通して下さいというのだから、ひどいものだ。卒業論文だけは書いてきて、とにかくこれをみてください。みると、おどろいたね。これが素晴らしい。最高点だ。」(加藤周一著、作集14巻『羊の歌』183頁)
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