10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(中)
Japan In-depth / 2022年1月12日 23時21分
▲写真 仏陸軍のルクレールのアップグレード用の装甲キット(著者提供)
防御が厚くなった分重量がかさむが、戦車の主たる役割は第二次大戦以来の戦車同士の機甲戦から、それ以前の歩兵の直協へと先祖返りしているのだ。だから機動力は犠牲になってもさほど問題ない。
それでもイラク戦などで証明されたように旧東側の戦車に対しては圧倒的な優位を保持している。故に多くの国々では新たに新型戦車を開発せずに、既存の戦車の近代化ですませている。
確かに10式は新規の設計で、その分第3世代の戦車を近代化した3・5世代戦車に較べて重量軽減という面では多少有利だ。だが、だからといって70トンの戦車と同じ防御力を確保できるわけではない。それは物理的にも価格の面からも不可能だ。またセラミックやその他の複合装甲を採用すればコストがかなり上がるので、10式はそのような先進の複合装甲を多用できなかった。ネット上はそのような装甲を有しているとの主張があるが、それはマニアの願望に過ぎない。例えば対地雷IED対処で車体底部を二重装甲化するならば2トン程度の重量増加になる。40トンの10式には無理だ。
▲写真 英陸軍は第3世代のチャレンジャー2を改良し使い続けている(著者提供)
イスラエルの最新戦車であるメルカバIVのサイドスカート(車体側面につける一種の増加装甲)の厚さは約10センチ以上あり、複合装甲と空間装甲を併用していると思われる。対して10式のサイドスカートは90式と同じで、わずか数ミリの鋼鉄製装甲板に過ぎず、単弾頭のRGPなどにしか有効でない。
それでタンデム弾頭のRPGが防げるならば「魔法」の類である。そのような「魔法」が可能であれば同時期に登場したメルカバIVも40トン台の戦闘重量を実現できたはずだろう。あるいは装甲の重量に頭を悩ましている米国から「夢の装甲」を売ってくれと圧力が掛かっているはずだ。
軽量化の一つの解決策はロシアのT-14のように無人砲塔を採用して乗員を車体内の走行カプセルに収容する方法だ。これだと砲塔を軽量化でき、かつ砲塔が被弾しても砲塔内の乗員が死傷することはない。だが10式にはこのような思い切った発想の転換はなかった。10式では通常の戦車のレイアウトにこだわった。
▲写真 無人砲塔のロシアT-14戦車。 出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images
ドイツのEDB社やオランダのテンカーテ社は複合装甲製のハッチを開発しており、これらを車長や砲手などのハッチに採用すれば1箇所たり数十キロの重量削減が可能だが、このようなものは採用していない。同様にゴム製履帯も採用していない。カナダのソーシー社は50トンクラスまで対応するゴム製履帯を実用化している。これを採用すれば重量を1~1.5トンは軽減できた。だが装備庁は採用しなかった。装備庁でもゴム製履帯を開発中だが実用化には至っていない。実用化されても外国製に対してコストで対抗できないだろう。つまり先進的なものを採用すれば軽量化も可能だったが、「格安戦車」にはできない。
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