10式戦車の調達は陸自を弱体化させるだけ(中)
Japan In-depth / 2022年1月12日 23時21分
実は軽量化を実現するために、三菱重工が提案した片側6個の転輪案は却下された。これを採用すると重量が1トン増加し、コストも高くなるためだ。そうなると輸送時の40トン以下という条件を満たせなくなる。このため片側転輪は5個に減らされたが、その分設計に無理がかかり、履帯が脱落しやすくなった。
事実、富士総合火力演習中に衆目の前で履帯が脱落した。このため機動力が落ちただけではなく、整備や運用にも影響し、更には車内容積も少なくなったので現場の隊員からの評判は悪い。
90式ですら当初の調達コストは11億円もしたのに、10式は調達当時10億円にすぎない。開発担当者は調達単価7億円を目指していたと筆者に説明した。だがC4IRシステム、補助動力装置、状況把握システムなど第3世代である90式にない装備と、これらを統合するためのソフトウェアが搭載されているのだ。通常ソフトウェアが戦車の価格に占める割合は少なくない。このため諸外国の3・5世代戦車は概ね第3世代の戦車の2倍程度の単価になっている。
これらは主として電子機器、ソフトウェア、増加装甲などのパッケージの費用である。車体が90式よりも一回り小型になったとはいえ、「安いには訳がある」と考えるべきだ。そして来年度の調達単価は7億円の約2倍の13.7億円に高騰している。
因みに74式も90式も諸外国の同世代の戦車に較べて3倍ぐらい高い。3.5世代の戦車は概ね15~20億円程度であるから、比率でいけば10式は30~45億円程度になっても不思議ではない。それがいきなり他国の3.5世代戦車の2/3程度まで価格を激減させているのだ。疑うなという方が無理だろう。
無論コスト削減は大事であり、その成果は10式に反映されているだろう。事実10式の開発にあたって、民生コンポーネントの採用や部品点数の削減などが大胆に行なわれた。だがだからといって10式の防御力やネットワーク機能が諸外国の3.5世代戦車と同等で、値段は半分以下と主張するのは工学的に無理がある。
技本は筆者のインタビューに対して「性能と価格をトレードオフした設計、機能のソフトウェア化などが盛り込まれた。性能と価格をトレードオフというのは各機能やコンポーネントに関して技本が陸幕に対して、この部分を高性能にするとこれだけコストが上がりますと説明し、コストを削減するために敢えて高性能化を諦め、費用の安い既存の技術やコンポーネントを採用した部分もある」と説明している。
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